5話 理想の世界~夢の中~

「っていうか、大輔は? どこ?」


 私は今更になってこの場所にいるのが物凄く不安になり、焦りを見せ辺りを見渡す。

 しかしいくら見回しても大輔がここにいるはずもなく、私の不安は更に大きくなる。


「大輔? ねぇ……いないの?」


 いくら呼んでも返事はなかった。

 どうしよう……私、なんでここにいるの?


「あっ――」


 私の脳裏にある事が過ぎる。

 それは私がここで目覚める前、急激な睡魔に襲われた事。


 これは夢なのかもしれない。


 徐々にパニックに陥る。頭の中が真っ白になり、泣きそうになりながら思考を巡らせる。


 夢だよ、きっと……だっておかしいよ。

 今までゲームしてたのに、いきなりこんな所にいるなんて。

 夢じゃなかったら説明がつかない。


 でも、夢だったら……いいかな。この世界を堪能できるんでしょ?


 私は――これは夢だと――言い聞かせ、今起こっている事実を受け入れてしまった。


 せっかくだからこの世界を満喫しようと。浅はかにもそう考えてしまったのだ。


 そして――


「とりあえずStayGirlステイガール……って、ないのかよ!」


 私は自分の腕を見て、StayGirlがない事に気が付いた。


 StayGirlとは、言わば自分の能力を見られるという便利なもの。

 体の状態やマップ、クエスト状況やラジオまで聴ける優れもの。

 身に付けているものや所持アイテムまでわかり、全てがこのStayGirlで管理されている。

 腕に取り付けて使用する。


 これが実際に売りに出された時は本当に欲しかった。でも当然、ニートが手を出せるような金額ではなかった。だから仕方なく諦めざるを得なかったのだ。


 ここまできて、私の脳裏にはある事が過ぎる。


 ――それでこれ、最初からプレイするって夢?


 夢の割にはなんか現実っぽいんだよな……。

 でも、たまに見るよね。現実っぽい夢。


 そう割り切り、思考を切り替える。


「ん~とりあえず、脱出か」


 横たわる男性が身に着けていた結婚指輪を指から取り、バックパックにしまう。別に後で売ろうとか、人の結婚指輪をそんなふうに考えているわけじゃない。


 ……私はカプセルが並べられた部屋を後にした。


 そして部屋を出ると明かりなどは一切なく、更に薄暗くなりもうほとんど何も見えない状態だ。

 私はその暗さに目が慣れるまでは動く事が出来なかった。


 しばらくその場に立ち尽くしていると、目は自然と暗闇に慣れてくる。

 そしてその場所がどのようになっているのかを手探りで確認した。


 空間の把握に時間はかかったものの、私の中でやっと状況把握が出来た。

 それもあのE.o.W.の世界が、忠実に再現されていたお陰でもあるだろう。


 廊下に出るとすぐ目の前にある壁に、一枚の絵画が飾ってある。

 立てかけてはあるが、そのバランスは保っておらず斜めになり、今にも落下しそうな程にぐらついている。


 薄汚れた絵画だが、辛うじてどのような絵なのかは見てわかる。


 見渡す限り海。海に囲まれた大地に、天高く昇る煙が印象的な工場がある場所だ。

 おそらくこの絵画が描かれた当時は、スカイブルーの綺麗な海だったのだろう。


「こういう場所……好きだな」


 私はその絵画に見とれていた。


 工場とか、煙が空に向かうにつれて大きくなっていくあの感じ、めちゃくちゃ好きなのだ。

 廃墟とか廃村とか……ダンジョンみたいで思わず入りたくなってしまう。


 ――自分で言うのもアレだが、重症だな。


 そしてその絵画が飾ってある通路の左右を見渡すと、更に横に細長い通路があるが、暗すぎてあまり遠くまでは見通せない。

 この位置から見えるのは、すぐ近くに扉がある。それだけだった。


 まずは探索して武器や薬を探そうと右の通路、左側の扉に向かい歩みを進めた。


 扉に近づくと、その場所が明らかになった。

 縦長で、私の身長よりやや高い位置まである扉だ。

 全体が白色の扉の中央には、凹凸おうとつのある円形の中にShelterシェルターと書かれている。


 目の前に立つが扉は反応しなかった。


 元々自動で開くタイプじゃないのか、長年の劣化で壊れているのかはわからない。

 その扉の周囲を見渡すと、扉のすぐ隣の壁には赤くて丸いボタンが突起出ている。


 私はそのボタンを手のひらで強く推した。


 プシュ――ガチャ。


 扉は口を開くように真ん中から分かれ、音を立て上下に開いた。

 そして扉が開くと同時に、私の感情を更に高ぶらせる。

 夢だが――高揚感が――ふつふつと湧き上がるものを感じた。

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