第1章 理想の世界と出会い

4話 理想の世界~カプセル~

「ん――」


 目覚めるとそこは。


「どこ、ここ?」


 私、ゲームしてたよね。

 辺りをよく見渡すと、私のよく知っているあの場所に酷似していた。

 私はゆっくりと立ち上がると、辺りを見渡し、少し歩き回ってみる。


「やっぱり……そうだ!」


 薄暗く小さな部屋。部屋の端々には縦長のカプセルのようなものが沢山置かれている。

 それぞれのカプセルの真横には、一つのスタンドがあり、その先には0から9までの数字と"ENTER"ボタンが付いているスイッチが付いていた。


 カプセルの中央には、人ひとりがようやく通れる程の狭い通路があり、区切るように黄色い鉄の柵が両脇にある。

 通路の入口付近には、通過すると反対側に開く改札のような小さな扉が取り付けられている。


 部屋の中は少し肌寒い。

 カプセルの横に証明が数個付いていたが、それがあっても部屋の中は薄暗い。電気は通っているのだろうか――そんな不安が脳裏を過ぎる。


 視界は良好ではないが、この部屋にはかなり見覚えがある。だから鮮明に覚えていた。


 通路の脇にある黄色い柵をまたぎ、縦長のカプセルに近付く。


「ぁいてっ!」


 段差があるのを忘れていた。

 カプセルにばかり目がいき、またいだ先の地面を見ていなかった。

 ほんの少しの段差に足が乗っかり、バランスを崩してしまったのだ。


 ようやく体勢を立て直し、後ろ手に柵にお尻を乗せ体重を預ける。


「ふぅ~」


 ため息をつくと再び目線はカプセルへ。


 そして真横にある数字が並んだボタンを見る。

 薄汚れていて元の透明色は保っていないが、中のボタンを保護するようにカバーが施されている。


 カバーに手を伸ばした。


 並ぶ数字を見たところで、どの数字を押せばいいかなど到底わからないが、何となく中央に位置する5の数字を押してみる。


 ……何も反応しない。ビーともブーとも言わない。


「やっぱりダメか」


 ヤケになった私は、怒りに任せ、雑に適当なボタンを連打する。


 ……反応なし。

 ボタンを乱暴に連打する音が響くだけ。その後は驚く程に静かだ。


 私は深いため息を吐くと、重い腰を上げた。


 振り返ると反対側にある、似たようなカプセルの中に男性が横たわっているのが見えた。


「あっ――」


 これまた見覚えがある。


 あれはゲーム通りなら、確かカプセルの扉が開くはずだ。

 私は思わず柵をまたぎ、急ぎ足で反対側のカプセルへ近付いた。

 そして傷だらけになったカプセルの大きなカバーを開く為、数字が並んだ下部にあるENTERボタンを押す。


「ん?」


 ――しかし反応がなかった。

 もう一度。


 私はENTERボタンを連打した。


 ピピ――プシュ――


 煤けて色あせているカプセルの扉は、音を立ててゆっくりと上に開いた。

 長い年月を経て故障しかけていたのか、時間差で中の男性と対面する。


 中の男性は既に死んでいる――そして男性の指には結婚指輪が。

 おそらくこの男性は、ゲームが始まってすぐに射殺されてしまった主人公の旦那だ。


 ――私はこの瞬間に確信した。


 あの場所だと。

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