Dr.ドクター
胸にしまった音叉が鳴った気がしたけどそんなことはなかった。なんにも音は鳴ってない!
そういえば、音叉は振動を何かに伝えなきゃ音は鳴らないんだっけ?
なんとなく音叉が気になってドクターと看護婦さんの目を盗んで壁の管に当ててみた。
駄目だ……管から流れる狂ったメロディーが邪魔で音が響かない……
「それじゃあ麻酔をかけようね」
ぐるぐる顔をにっこりさせてドクターが注射器を準備している!
胸にはDr.ドクターと書かれた名札が付いている。
Dr.ドクター?
顔の渦巻きは右目の少し右上を中心に、口や鼻や目まで巻き込んでぐるぐる渦を巻いている。その歪んだパーツがにっこり笑うとゾォっとしちゃう……
ましてや麻酔を打たれたら、目が覚めたときには脳を抜かれてる……
別の脳に替えられてるなんて絶対嫌!!
縋るような気持ちで何かないか探しているとベッドの足が太いパイプになっていることに気がついた。
お願い。
お祈りしてから、ベッドの脚に音叉を押し当てると、澄んだラの音が響き渡った。
ギュッと閉じた目をおそるおそる開けてみると、ドクターと看護婦さんが気をつけの体勢で小刻みに震えていた。
二人は一点を見つめて歪んだ口をぱっくり開いてラーーーーーーと正しい音程を発している。
音叉と同じ音!
音叉が鳴り止む前に離れた方が良さそう……
そんな気がして急いで扉を開けて部屋を飛び出した。病院の廊下はいつもとまったく様子が違ってた。みるからに病気の重そうな患者さんでいっぱい!
縫い後だらけの患者さんや、車椅子の患者さん、何本も点滴につながれた患者さん……
その誰もがぐるぐるの渦巻き顔で、頭には包帯をぐるぐるに巻いていた。
脳を取られるとぐるぐる顔になっちゃうの!?
するとさっきの部屋からドクターが飛び出してきた。美空は慌てて駆け出した!
「待ちなさい! どうやって逃げた? 手術が怖いのは分かるけど大丈夫だから安心おし!」
ドクターは看護婦さんにまたがって追いかけてくる! 看護婦さんは四つん這いですごい速さで走ってくる!
階段を登って、また降りて、色んな部屋を通り過ぎて、息が苦しくなってきてもう走れない!
それにどんどん大きくなるオルゴールの狂ったメロディー! もう頭がおかしくなりそう!
頭を抱えて曲がり角を曲がると、正面にあった扉の中に飛び込んだ!
入ってから気が付いた。そこはなんと手術室……
たくさん並んだ恐ろしい器具や機械達……
だけど一番目についたのは、手術台の向こうにあるオルゴールの機関部だった。
あれだ! 狂った音色の元凶!
その時後ろの扉が勢いよく開いてドクターが手術室に入ってきた。
「オペを始める! メス!」
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