狂い出した病院
白、青、赤、病院で見える色はこの三色だけ!
白! 真っ白な建物、真っ白の白衣、色白の綺麗な看護婦さん達。
青! 窓から見える青ざめた海。どこまでも果てしなく続く海。青ざめた海原に、まるで嘆きのように白波が砕けるのが見える。
そして赤! 時折、ドクターと看護婦さんが白衣を真っ赤に染めて歩いてる。きっと炭坑か工場で、また大きな事故があったんだ。
それにしても酷い音……
視界がグニャグニャに曲がって酷い吐き気がする。
ピィポォオーピィポォオーピィポォオーピィポォオー
救急車のサイレンが歪んだ音を発しながら病院に飛び込んでくる。病院の音楽とサイレンのせいでも美空は頭がクラクラして倒れてしまった。
ピィポォオーピィポォオーピィポォオーピィポォオー
天井が回る。世界が歪む。意識が遠のいていく。
「美空ちゃん? 美空ちゃん?」
気が付くとどこかのベッドに横になっていた。
すみません。気持ちが悪くなってしまって……
起き上がって顔を上げると看護婦さんの顔がグニャグニャの渦巻きになっていた。
ひっ……
思わず声が出ちゃった。
看護婦さんは変わらない様子でカルテを書いている。
あたりをよく見ると、ここはいつもの病院となにか様子が違う。まず窓がない。あの青ざめた海が見渡せる窓が一つもない。
それに壁には見たことのない歯車や部品、真鍮を白塗りにした管がたくさんついている……
管はまるで生き物みたいにウネウネと歪んで見えたし、さっきよりも病院のメロディーは大きく反響していた。
機関部に連れてこられたみたい……いったいどうしてだろう?
美空が立ち上がろうとすると渦巻き顔の看護婦さんが慌てて近寄ってきた。
「寝てなきゃ駄目よ? もうすぐ先生が来て手術してくれますからね」
手術?
「先生が見た所、美空ちゃんは脳に問題があるみたいなの。だから脳を取り出して、そっくり新しい脳に入れ替える手術をするのよ」
脳を入れ替える……?
あまりの衝撃に言葉を失っているとパタンと扉が開いてドクターが入ってきた。ドクターの白衣は血と黄色い汁で汚れていた。
「やあ美空ちゃん。調子はどうだい?」
ドクターがカルテから視線を上げると、やはりドクターの顔もグルグルの渦巻きになっていた。
絶対に変だよ……なんとかここから逃げ出さなくちゃ!
すると突然、胸に仕舞っていた音叉から音がしたような気がした。
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