第十一話『第三の選択肢』
「……あれ、もしかしなくてもヤバい奴だよな?」
「そりゃヤバいわよ。どれくらいヤバいかって言ったら、あれが着弾したら多分無事な奴は一割もいないってくらいにはヤバいわ。そんでもって、あたしたちがその一割に含まれる可能性は著しく低いの」
「まあ、完全にボクたちがアレの引き金を引かせてしまったからね……。アルゲストの軍もアレを撃ち落とそうとはしてくれるだろうけど、正直間に合うかは怪しいかな」
地面に落ちれば間違いなく大災害に数えられるような破壊を目の当たりにして、エリーとランスは冷静に状況を分析する。その結果は、大体コウスケの予想通りのものだった。
「……つまり、俺たちはどうすればいいんだ?」
「今出せる選択肢は二つ。ここから全力で逃げて生き残るか、最後の時間を使って配達を全うするか。……ちなみに、その両取りは多分許されないと思うわ」
「……何つー究極の選択……」
自分たちの看板に傷をつけて逃げかえるか、その矜持に準じて終わるか。そんなメチャクチャな二択を、今コウスケは強いられているわけだ。そんな最中でもこのカーゴは前線に向かって前進を続けているわけで、コウスケたちは死へと向かってかなりの速度で突っ込んでいっていると言い換えても良かった。
「クソ、どうする……どうすれば……‼」
「今引き返せば多分間に合うわよ。……まあ、その場合依頼は達成できない可能性は高いけど」
「事情を知れば、周囲の人たちも許してくれるとは思うけどね。まあ、ボクたちが元凶になったことは絶対に知られちゃいけない秘密になるけど」
「二人そろって『まあ』の後が重たすぎるんだよ……‼」
仮に生きて帰ったとして、とんでもない業と秘密を背負ってここから先の時間を過ごさなければならなくなるわけだ。……それに耐えて強く生きていけるかと聞かれた時、コウスケは素直に頷ける自信がなかった。
「……でも、俺のエゴでお前たちまで危険に晒すわけにはいかねえ……」
このカーゴだけが脱出手段であり、これが無ければ配達も逃走も絶対に不可能だ。だから、選択はどちらか一つだけ。……仲間が逃げることを選択するなら、コウスケもそれに従おう。そう決断して、コウスケは仲間たちの方を向き直ったのだが……
「……あんた、今更何言ってんの?」
「……は?」
エリーの手にその両頬を挟まれて、コウスケは困惑の声を上げた。
「あたし達はあんたに集まるようにしてここにいる、運び屋『オーワ』の店員なの。どれだけあんたに力が無くても、『オーワ』の店長は、最高責任者はあんた。……だから、あんたのエゴがこのカーゴの行き先になるのよ。二人とも、そうでしょう?」
「ああ、その通りだね。コウスケの覚悟がどっちに行くにしても、ボクたちはその決断について行くだけだ。……だから、君の覚悟を聞かせてほしい」
「そうですよお! コウスケさんが、私たちをいつも束ねてくれているんです。……だから、たまには我儘な本音を聞かせてください!」
仲間たちは、口々にコウスケに決断を迫る。決して責任転嫁などではなく、ただ単純に、コウスケに大きな信頼を乗せて。……世界で最も断れない頼み方の連続に、コウスケは笑うしかない。
「……引くなよ?」
「引かないわよ。それがアンタの後悔のない決断なら、ね」
コウスケの臆病な前置きに、エリーは笑みを浮かべて返す。……それを見て、コウスケの中で最後の一歩は踏み出された。
「……俺は、運び屋としてこの仕事を全うしたい。あの指輪には思いが乗ってる。それが届かないまま宙ぶらりんになるのだけは御免だ」
「……そう。それなら……」
「だけど、死ぬのだって御免だよ。俺はまだ、お前たちと愉快で忙しい生活をしてたいんだ」
エリーの言葉を遮って、コウスケはエゴを垂れ流す。決して不可能でも、二つの可能性を追い求めることを、諦めないという覚悟を。
「こんなに良い仲間を持ったのに、ここで終わるなんてまっぴらだ。……なんとしてでも、俺はお前たちと生きて帰る。仕事も果たす。……たとえ無理だって言われても、俺は両取りを追い求めたいよ。……もともと、欲張りな生き物なんだ」
「そう。……それが、非現実的な我儘でも?」
「ああ。最後まで諦めずに挑む権利は、俺たちにもあるはずだろ?」
最終確認にも、コウスケの決断は変わらない。そのまっすぐな視線は、問いかけるエリーの瞳を貫いていた。
「……分かったわ。あたし達が信頼を託したリーダーは、思った以上に馬鹿だったみたい。現実的じゃないって、あんなに言ったのに」
「悪かったな。……だけど、諦めたくはねえんだよ」
エリーのため息に笑顔で返して、コウスケはアクセルをもう一度踏み込もうとする。……だが、エリーの手がそれを制止した。
「どうした、まだ何か――」
「――そんな非現実的なリーダーだからこそ、提案できる案があるわ。何も諦めたくない、全部拾い上げて帰ろうとする。……そんな、コウスケのもとに――」
そこで言葉を切ると、エリーは仮面に手をかける。正体を隠すための必需品を、コウスケの目の前でゆっくりと取り外して――
「――いなくなったはずの勇者が一瞬だけ力を貸してあげる、なんて非現実的な展開が舞い降りるのは、決して不思議な事ではないんじゃないかしら?」
――悪戯っぽい笑みを浮かべて、エリー――否、『勇者』エリス・アールゼルグは第三の選択肢を提示してきたのだった。
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