第十話『怪しすぎる第三勢力』
――そして、物語は冒頭へと舞い戻って来る。魔術飛び交う戦場の真っただ中を、カーゴはひたすらに駆け抜けていた。目指す前線が近づいてきたこともあってか、こちらに向けての攻撃はより苛烈さを増している。さっきまでは流れ弾のような感じでこちらに飛んでくるものがほとんどだったが、今では確実にこっちを狙った魔術攻撃が少しずつ増えてきつつあった。
「これ、両軍からしたらどう見えてるんでしょうねえ⁉」
「アルゲストからしたら敵軍の挟撃、相手国からしたら未知の兵器による増援部隊の派遣ってところかな! どっちにしたって、無視出来る存在じゃない事だけは間違いない!」
「つまり⁉」
「……予想通り、最っ高にめんどくさい状況になるってことさ!」
窓から外を覗きながら、エリーとランスが怒鳴り合うようにして現状を把握している。今はまだコウスケのドライビングテクニックとカーゴの耐久力のおかげで何とかなっているが、いつエリーに露払いに出てもらうか分からないような状況へと変化しつつあった。
「コウスケさん、今度は右から来ます!」
「右了解、皆つかまってろよー‼」
魔力感知に優れたマーシャの指示に従い、コウスケは思い切りハンドルを回す。猛スピードで進行方向を変えた瞬間、さっきまでカーゴが居たところに特大の火球が着弾した。
「第三勢力だってのに、そんなリソース使っていいものなのかねえ⁉」
「相手からしたら軍もあたしたちも同じだもの、リソースの事なんざ考えてないわよ! それに、もうすぐアルゲストの後衛が近づいてくるから……」
「うおお、何だこの車⁉」
「背後奇襲だ、いつの間にか裏を取られているぞー‼」
エリーのそれは予言だったのか、前線へと猛スピードで迫っていくカーゴを目撃したアルゲスト兵の一部が驚いたような声を上げる。それ自体は当たり前のことなので責めようがないのだが、ついでに発した言葉がまずかった。
「撃墜! 後衛部隊、敵軍の別動隊を壊滅にかかれ――‼」
「……ああもう、やっぱりこうなった! やろうと思えばもっと遠くから攻撃できてんだから、ここに来た時点で第三勢力だって理解できないもんなのかしら⁉」
「少なくとも、ボクたちがそれを訴えかけられる立場じゃないのは確かだろうね――‼」
「コウスケさん、一斉に魔術が来ます! 私が迎撃しますので、コウスケさんはどうにか前線まで車を走らせてください!」
「了解、後ろは任せたぞ!」
一瞬にして撃滅体勢に入ったアルゲスト軍の後衛に対して、コウスケたちは全速力の逃走を図る。異世界に適応する形で加工されているとはいえど、このカーゴはただのカーゴの域を出ない。こんな状況に対応するための隠し機能など、スパイ専用車でもないただの一般車についているはずもなかった。
「よって、逃走あるのみ――‼」
アクセルを全速力で踏み込み、前線に向かって一気に前進していく。バックミラー越しに色とりどりの魔術が飛んできているのがはっきりとわかるが、それに関してはお構いなし、ついでに心配もなしだ。
なぜなら――
「……まとめて、爆ぜちゃえっ‼」
――遠慮と力加減が出来ないこと以外は、マーシャは最高の魔術師だからである。
カーゴを守るように展開された爆風が、迫ってくる魔術を全て撃ち落とす。おまけに爆風がカーゴの背中を押す追い風となり、コウスケたちは前線に向かって一気に前進していった。
「後ろは心配ありません! このまま私が……あ」
防御態勢は問題なし、むしろそれを追い風に変えたコウスケたちは目標までもう少しというところにまで迫っている。傍から見れば順調でしかない状況だったが、真っ先に息を飲んだのはほかでもないマーシャだった。
「……どうした? やっぱり、独りであれだけの人数の攻撃を抑え込むのは無理が――」
「……いえ、違います! 前、前を見てください‼」
「前? 確かに目は離してたけど、さっきのやつっきり攻撃は……って、え?」
マーシャの警告を受けて前を見やったエリーも、その視界の先に見えた景色に息を吞む。その眼が向いている先を追って、初めてコウスケはその現状に気が付いた。
ここは戦場で、配達に来たコウスケたちは第三勢力、というか無関係の民間人であることは間違いない。しかしそれを知るのはカーゴの中の四人のみ。この場にいるそれ以外の誰もが、このカーゴを怪しいものだとして見ている。
アルゲスト側は同士討ちを嫌って統率を取るしかないが、相手国側からすればもっと効率的で都合のいいやり方があるのだ。もちろん妨害のリスクはあるが、幸いなことに相手の後衛もその謎の物体に翻弄されてその攻撃を相手国側からそちらへと転換していく。つまり、準備する時間もたっぷりと敵国にはあった訳で――
「……この世界、やっぱり時々スケールが違いすぎるんだよな……」
空を覆わんというくらいの大きさの魔弾が、敵国からアルゲストに向かって構えられている。……相手国の選択は、『第三勢力も敵勢力も面倒だからまとめてその一帯の土地を吹き飛ばす』という、あまりにも力任せで、だからこそ効果てきめんな一手だった。
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