第19話 いつもお主が探し当てるではないか。超能力者みたいに
◇◆◇◆
「──サキタラシ!」
「……えっ、僕のこと?」
「そうだ。さっきから呼んでるのに、何をボーとしておるのだ、サキタラシ!」
綺麗な朝顔の描かれた、上品な紫の着物を着ていた美人な女性の呼びかけに反応し、手に持っていた物を足に滑らす。
「あちっあちっ!?」
「もう、何ドジを踏んでいるんだ。しっかりせんかい!」
夕暮れ時、僕は藁葺き屋根の室内にいて、何かが入っていた木のお玉から、つい先ほどまで、料理を作っていたことを知らされる。
目線の先にはたき火があり、その上に大きな土鍋が置かれてある。
中身には山菜らしきものと、どんぐりなどの木の実が入っていて、焦げ茶色に香ばしい香りからして、カレーだということは分かる。
「なあ、君。僕はここで何をしていたんだ?」
「自分で調理をやっておいて、いきなり君とは何のつもりだ。私の名前はヒミコと言うのだぞ。いい加減、名前を覚えんか」
「ああ、ごめん。寝起きなんで、頭が冴えなくてな」
「器用な男だな。お主は目を開けて、立ったまま寝れるのか?」
「実は爬虫類の血が流れていてな」
爬虫類は冗談として、僕ことサキタラシは、ヒミコと一緒に、ヤマタイ
「お主どうしたんだ。毎度ながら、前の日の記憶がないと言って、今回は私たちの関係の記憶すらないとは?」
「ごめん。わざわざ説明してくれてありがとう」
「例には及ばん。サキタラシには、いつも世話になってるからな」
「……引っ込み思案の私を救ってくれたのも……お主だったし」
ヒミコが少し声を濁しながら、背負っていた銅でできた、錆びついた円盤を見せる。
彼女が無言で円盤を裏返すと、裏側はよく磨かれた鏡であり、彼女に言わせると、これのお陰で、今の村長の地位まで上りつめたとか。
「えっ、その鏡で身だしなみがチェックできるようになったから、ようやく女としてモテ始めたと?」
「はあ……。今日のそなたは重症だな。この鏡をくれたことも、理由も忘れとるとは……」
「ごめんよ。悪気があるわけじゃなくて、本当に覚えてないんだ」
「何なら私の知り合いの医者でも紹介しようか? 少し荒手の痛々しい治療法じゃが、効果は抜群だぞ?」
「……え、遠慮しとくよ」
痛い治療法って聞いて、虫歯の治療みたいなものかと想像して、寒気が走る。
麻酔にも色んな種類があるが、意識のある治療法ほど、苦手なものはない。
僕的には、眠っている間に終わらせました感の方が、余計な心配をしなくて済む。
まあ、手術だったら、余計な所までやらかしても、無かったことにも出来るらしいが……。
国家試験や研修まで通って、よくそんな屁理屈が通用するなと言いたくもなる。
いくら失敗して慰謝料を積まれても、人間という生き物は、一度、命を奪われたら、そこで終わりだから……。
……あれ?
この不可思議な記憶はなんだ?
考えを研ぎ澄ましても溢れてくるのは、羽の生えた影が揺らぐ記憶のみ。
セピア色に滲んだ一人の影は、ただ泣いていた。
その理由さえも気づかずに……。
「サキタラシ!!」
「あっ、すまん」
「どうした? 今日は一段と、調子が悪そうだな?」
「やっぱり、例の『お守り』と言っていたペンダントがないと不安か?」
そのアイテムを耳にした僕に、一種の記憶が浮かび出す。
高価な外見をした、いや実際にも値段が張るらしい、名入れ付きのアクセサリー。
「ペンダント……って、あの金色のぉぉー!?」
僕はそのアイテムの名にいきり立ち、ヒミコの両肩を掴んで、彼女の瞳をまっすぐに捉える。
「ああ、そうだけど……」
「そなた……ちょ、ちょっと距離が近すぎるぞ……」
ヒミコは真っ赤な顔をしながら、サキタラシを押し退ける。
その行為にサキタラシはハッとなり、慌ててヒミコがいる、その場から距離を少し置いた。
「そのペンダントは、どこにあるんだ?」
「どこと言われても、いつもお主が探し当てるではないか。超能力者みたいに」
「僕が
「そうだな、まるでペンダントに吸い寄せられるように」
超能力と訊いて、僕の背中にモゾモゾとした感触が伝わってくる。
記憶は失っていても、この感覚だけは身に覚えがある。
僕はそれらの言いがたい答えを声には出さず、胸の奥で大きく叫んだ。
その叫びに同調するように、片方の肩から出てくる一つの真っ白な翼。
僕は片方のみの翼で、自然と宙に浮いていた。
「片方のみの羽ありでも、立派な羽ありか。やっぱり、いつ見ても存在感が違うの」
「片方の羽か……」
「まあ、お主ならすぐに両対の翼になれるはずじゃ。それが生えたのも、つい最近だったからな」
「そうなのか……」
片方というのが腑に落ちない点もあったが、同じ村人でも村長クラスのヒミコには翼は生えていない。
「サキタラシ? 笑ってるのか?」
「ああ、この高揚かんは最高だぜ」
その特別なことに胸を踊らせ、翼を動かし、少しばかり村を一周する。
何てことない、ちっぽけな村だ。
一周するまで、数分もかからない。
「んっ?」
その時、サキタラシの脳裏に、何かの情報が入り込む。
『ワタシはここにいます……』の、ノイズ混じりの音声が混じったシグナルな信号を──。
「サキタラシ、どうした、ソワソワして?」
「ヒミコ。ちょっと出かけてくる」
「なっ、出かけるも何も、明日には、エンマ大王殿が村の抜き打ち調査とやらで来るんだが?」
「ああ、今日中に帰ってくればいいんだろ?」
何が不満なのか、僕の答えにヒミコが怪訝そうに、こっちを見返してくる。
サキタラシは、そのまま片方だけの翼を器用に羽ばたかせ、フワリと上空へ飛んだ。
「サキタラシ、待つのだ!」
「待たないよ。あら、えっさっさー♪」
みるみる間に村が小さくなり、一つの点となる村。
ヒミコの怒声も砂時計の流れのように消え、サキタラシは、ひたすらメッセージが告げられた上空を目指した。
◇◆◇◆
『──ゴツン!』
「ぐわっ!?」
サキタラシが一定の距離を飛び、雲を突き抜けようとした時に、見えない壁のような物に頭をぶつける。
あまりの痛みに頭を擦り、動きを止め、その先の空に手をかざす。
「痛いな、何なのさ?」
何もないはずなのに、触れた先に確かに壁の感触がする。
でもこれが何なのか、僕にも分からない。
ただ理解できるのは、ここからは普通に飛んでも、上には行けないことを……。
「だったら、強行突破あるのみだ!」
僕は片方の羽で少しだけ後方に下がり、充分な距離を保ったまま壁に体当たりする。
『バリィーン!』
ガラスが割れるような音がして、僕は更なる上空へと飛び出していく。
──やがて辺りは夜のように暗い空間に包まれ、無数の岩が浮遊していた。
眼下には母なる地球が見える。
「ここは宇宙なのか?」
宇宙のわりには普通に呼吸ができるし、寒気もなく、体にも悪い放射線などの影響はない。
不思議に思いながらもサキタラシは、その上空に浮かんでいる、場違いな小さな島のような物を発見した。
──そこへ耳に走る『ワタシはここにいます……』の、ノイズ混じりの音声が混じったシグナルな信号。
「そこにあるんだな、僕の求めていたペンダントが‼」
サキタラシは、その声のした島へと全速力で羽ばたいていく。
まるで島にあるという、金色のロケットペンダントを探し当てるかのように──。
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