第11話 あの方から選ばれた人間ということ
──まず霊視について。
これは生まれつき備わっているパターンとある機会をきっかけに霊視に目覚める二つのパターンがある。
また霊視とは幽霊などが見える霊感とは少し違い、幽霊などは見えず、背中に生やした羽が見える能力である。
「ふーん。霊能力者になれた訳じゃないんだな」
「もっともじゃ。もしそうなってしまえば霊能力者の商売もあがったりだからの」
普通の人に見えない羽は幽霊を見た人の状況と一致し、何より普通の人には見えないということで分かりやすく霊視という表現にしたのだ。
──同業者に羽が見えるということを隠し、幽霊が見えるという表現を使い、霊能力者に本心を伝えないまま、こうして霊視の持ち主は今日まで上手く霊能力者と関わり合い、生き抜いてきた。
「それで霊視を持っていたら羽ありとか無しとかが分かるんだな」
「……で、生まれつきの霊視はよしとして、ぶっちゃけ、それらの羽が生える条件とは何だ?」
「フフッ、いきなり確信をついてきたのお」
エンマ大王こと、エンマがポケットから一本のボトル缶を出して、豪快に飲む。
鼻につくツンとくる匂いといい、中身はお酒のようだ。
「キミは人を真剣に愛したことがあるか?」
「なっ、なっ、こっ、この期に何言い出すんだよ!?」
「そう照れんでもいいぞ。それが羽を生やす条件なのだから」
エンマにからかわれ、どもってしまう。
そう言われてみればその台詞をどこかで聞いたことがある。
記憶の片隅にあり、うろ覚えで忘れてしまったけど……。
「その想いが一方的なら羽は片方のみだが、想いが通じ合って両想いならば、両肩に羽が生える。これが羽ありの条件じゃ」
「だったら両想いで結婚したら、みんなに羽が生えるじゃないか?」
「フフッ、実はそこがミソなんじゃよ」
エンマが酒瓶に口を付けながらニヤリと笑う。
「この羽は二十代までの独身にのみ生える羽であり、三十代を経過したり、結婚をしてしまうと無くなる仕組みとなっておる」
「へー、それは面白いな」
「でだ、この羽は幸せホルモンのセロトニンの塊でできており、お互いに想い合い、純愛じゃないと生えないようになっておる」
「……なるほど、そう言うことか」
僕はエンマの説明を理解して立ち上がり、地面にある石ころを蹴る。
石は転がり、丘から落ちて草木で弾んだ音がした。
「でな、この羽は二種類のタイプがある」
「要するにさっき聞いた片方の羽と両対の羽の話しだよな?」
「そうじゃなく、羽には天使と堕天使による二種類の羽があるんじゃ」
「なっ、何だって?」
それは僕も初耳だった。
確かに天使もあれば、その反対もあり得るが、これまた条件が絡んでいるのか?
「純愛な天使の羽とは違い、堕天使の羽は偏愛じゃないと生えてこない。思いっきり狂いきった愛情じゃないとならないんじゃ」
一人の人物を変質的に愛する行為に、ストーキングから始まる病んだ関係、一方を愛しながらも寝とられを狙う狂った恋愛。
ピュアな純愛とは違い、偏愛とはまさに腐りきった両極端な恋愛である。
「うん? 待てよ?」
ふと、違和感を感じた僕は目を凝らしてエンマの背中から伸びている羽を見つめる。
「エンマ大王の羽は黒いんだけど? もしかすると?」
「そのまさかじゃ。我輩には堕天使の羽が付いておる」
僕はエンマの答えに驚きながらも先ほどの軍歌のような歌を思い出す。
歌詞の『堕天使の頂点、エンマ』とはそこからきていたんだな。
堕天使ということは、エンマは何の罪を犯したのだろうか……ビビりな性格が災いし、そこから先は怖くて訊けない……。
「我輩は愛していた女性をこの手にかけた。永遠の若い体と引き換えに……」
訊いてもないのに質問に答えるエンマ。
そうか、それで昔話のエンマ大王とは違い、若々しく見えるんだな。
でも、普通の女性を地に埋めただけで若返るはずがない……。
「そうじゃ、我が愛したのはただの女性ではない。普段は天界にいる女神じゃった」
「我輩はたまたま天界の長であったイエジ・ギリストを祭る聖夜に降りてきた女神の命を奪って、永遠の肉体を手に入れたのじゃ」
「そのせいで我輩は天界から罰され、地獄で生活するようになり、何百年も地獄の炭鉱で這いつくばりながら仕事をし、お偉いさんとの経験を詰んで、ようやく堕天使の頂点とも言えるエンマ大王としての称号を手に入れたのじゃ……」
そして今はエンマ大王として生きてるのか。
豪快そうなエンマでも色んな苦悩があったんだな。
アダムとイヴの出会いのような昔話に思わず目頭が熱くなる。
「さて、これで羽ありの話は以上じゃが、何か質問でもあるか?」
「……あっ、いや……」
質問は何しも、全てを知ってしまい、何も意見が出てこない。
「そうか、じゃったら……」
エンマが片手を上げて僕の方に何かを投げる。
「ぐっ!?」
鈍い痛みが腹に伝わる。
腹痛ではない、人為的な何かだ。
僕は地面に両ひざをつけて痛む箇所を見ると腹には鋭く長い黒い刃が突き刺さっていた。
僕はエンマから隙をつかれて、攻撃されたのだ!
「なっ……、これは何……のつもりだよ!?」
「フフッ、キミは我が計画に支障をもたらす人物じゃからの。ここで消えてもらう」
「さ、最初から……僕を殺そうと?」
「そうじゃ、見たところ情に脆そうじゃからの。そのために昔話を持ち出して安心させた」
「それにはこうするしかなかった」
エンマが血溜まりに倒れ込んだ僕の首を持ち上げて首にかかっていた
「このペンダントを持っているからにあの方から選ばれた人間ということにな……」
エンマが痛みで抵抗できない僕からペンダントを奪い取り、足で思いっきり踏みつける。
そうまで血相を変えた顔をして、ただのペンダントじゃないのか?
「両対で記憶も維持できたら話にならんからな」
「ぐっ、その……記憶って……そのアイテムは何なんだ?」
「誠に残念じゃな。もう質問の機会は与えんし、答える義理もない」
「うっ……上手い具合に……謀りやがったな」
僕は大量の血を吐きながら、エンマを睨みつける。
僕のこれまでの生きざまからして地獄行きは確定だろう。
記憶がどうこうと言っていたが、地獄に堕ちたら真っ先にこのエンマを捜して、その首をはねてやる……。
「さらばじゃ。トテツヤマ・サキタラシとやら」
エンマが背中から抜いた大剣を僕の頭に振りかざす。
僕は痛覚を感じる暇もなく、暗黒の世界へと意識を無くしていった……。
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