よもや

「……からくりを知りたくないか?」


「?」


「君の力について、だよ」


 外連味たっぷりの態度で挑む。そうでなければ、彼の不満げな顔を翻せないと思ったからだ。


「君の力は無作為に消すんではなく、ちゃんとルールがあるんだよ。山と積まれたゴミ袋の一つ一つの輪郭を捉え、一つ一つ消した。よもや使い手さえも消しかねない力は破滅とは程遠い、尊重と抑制の効いた、つまり現実的な思考に促されやすい仕組みになってるんだ。だから、君はそぞろに他人に、飛躍的な発想を求めた」


 根も葉もない事をたらたらと講釈垂れて吐瀉した喉の熱は、うすぼんやりと酒精を匂わす。


「確認してみないか?」


 あらゆる事物を他人事のように消してきた彼だが、初めて立たされる岐路を前に、舌を畳んで長考の兆しを見せた。選択の余地を与えておきながら、その実、幅員減少につき誘導された道筋だとほくそ笑む。


「なにを確認をするんですか?」


「まぁまぁ、その時のお楽しみとして、取っておこうよ」


 彼は不承不承ながら、自分の要求を飲み込んだ。


「腹、減っただろう?」


「はい?」


「レストランへ行こう!」


 夕食時とするには少々、時間がふけていた。ドリンクバーに群がる親子連れもいないし、大声で会話を楽しむ学生の群れも見当たらない。いい時間帯だった。


「好きなものなんでも頼め」


「そうですねぇ……」


 見返りを求めぬ贔屓は、便器にこべりつく痰よりやっかいなものだ。ただ、メニューを指差すだけで終わる分、頭を悩ませる時間は少なく済む。


「じゃあ、これで」


「それだけでいいのか?」


「えぇ」


 悪意を由縁とした懇篤のような気がしてならないのだろう。運ばれてきた料理に毒が盛られていないかのあらぬ疑心を抱くほど、遅々として進まない彼の食事を差し置いて、自分はあっという間に食べ終えてしまった。


「ごちそうさま」


 彼が料理を平らげるまでの間、思案した。力がより良く働き、絶景なる光景が目の前に現れるかどうかを。


「天気が心配だな」


 独り言ちると、彼はそれを逃さなかった。


「ぼくにいったい、なにをさせるつもりなんですか」


 もはや目の前の食事もそっちのけで身を乗り出す彼を、押し留めることは不可能と見た。だから、雑談の中にポンと放り込む暴露話のように、軽々しく言う。


「太平洋を消すんだよ」


 我ながら、甚だ可笑しな話をしている。それでも彼は、一笑に伏すなどして、世迷言のようには扱わなかった。力の入った眉間の皺は、本質を見抜こうという気概に満ち満ちた強い意志が垣間見える。ただこのままでは、眼下の料理が冷めていくばかりだ。金を捻出する立場にある自分にとって、それだけが気がかりで、口煩い親の幻影をこの身に下ろす。


「先ずは、全部食べようか」

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