第16話 転生した少女

 失敗することで成功をする……まあ、バイトの先輩とかが定型文のように使う言葉がある。

 それって、今の俺には“人生”をかけているといっても過言ではなかった。

 

 事実、俺は巻き戻し世界で“応援団長”から“監督”にジョブチェンジした。

 それは、『応援することで力を増す』という能力を得た俺が––今できることを考えて行動し……失敗したから、巻き戻して今がある。

 つまりは……次は成功させることが必須なのだ。

 バイトだって、何度も失敗したらクビになるでしょ?


 「あー……首痛い」

 この国に在籍している勇者達の能力やスキルをメモした物を見ながら寝てしまっていたようで……体中が痛い。

 「あ、起きたの?おはよ」

 「……おはよ」

 隣にカレンがいつの間にか来ていたようで……どおりで柔らかい感触あったのか。

 「無理してない?大丈夫?」

 カレンは首のストレッチをしている寝起きの俺に心配そうに声をかけてきた。

 「大丈夫だよ」

 俺はそう答えるしかできなかった。


 

 決戦までは残りの時間は少ない。

 前の世界戦では……色々とカレンが模擬戦とかしていたのだけど、それは引き継いでいるのかな?

 俺は朝食に出された、川魚の塩焼きを一つまみしつつ考えていると––

 「今日は模擬戦はしないの?」

 同じように朝食のサラダを小さい口で食べつつ、口を見せないようにして俺に聞いていた。

 「……模擬戦かぁ」

 「––あまり無理はしない方がいいかもしれませんよ?」

 同じように、果物を食べているイリアさんが助け船を出してくれた。

 ……って、なんでイリアさんいるんだよ。

 『行き来楽になりましたので♪一人で食べるの寂しいじゃないですか』

 俺の脳内で答えてくる。

 まあ、メイドのルーナさんがイリアさんと夜通し酒を飲んでいるみたいだからなぁ。

 「ま、今日は敵情視察してくるよ」

 俺は––気になっていた事を消化することに決めた。

 それは、また戻らないための大事な事だった。


 

 まあ、この世界ってのは便利だよね。

 俺の能力は前の世界とは段違いに強く––一瞬にして自転車が車以上の力を発揮するんだから。

 だから、俺は今までは少し時間がかかった敵国で隣国でもある城壁の近くまで直ぐにこれた。

 ……ここでクソジジイの体臭とか色々と記憶がフラッシュバックしてくるんだけど……まあ、今はそんなことを思い出している暇はない。

 「ここにいれば、あの少女と会えるかも」

 同じく––転生している者がここにくるかもしれないと一筋の希望をもって待った。

 普通、世界が巻き戻れば……記憶も一新される。でも、そうじゃなかった。

 でも……転生者はどうなるんだ?

 俺は今更になって、“クソジジイに聞いておけばよかった”と後悔する。

 

 「……同じように巻き戻っていればいいな」

 最悪の事も考えゾッとしてしまったので、俺は最悪な事を考えるのを放棄して待った。

 すると……敵国の城壁から一人の少女が顔をだし、辺りを見回している。

 「……あの子か?」

 俺は、その姿を見てホッとした。

 そして、俺は3メートル以上ある城壁から飛び降りようとして––躊躇している少女に向かって小さく声をかける。

 「がんばれー」

 ……その言葉は数字となり、飛び降りた少女が無事に着地する手助けとなった。

 「よかった」

 無事に降り、こちらの森の方へと走る少女を見て、胸をなでおろした。


 そこから、少女は俺を見つけ––敵国の事や、この世界の話をしてくれた。

 それは、俺が巻き戻す前と同じ酷いものだった。

 「とりあえず、屋敷に行こう?」

 俺の応援で無事だったとはいえ、逃げる事できつかっただろう。

 少女を自転車の荷台に座らせ、二人乗りのような形で直ぐ様自分の国へと帰った。

 ……そこからは、カレンやルーナが一生懸命に治療や服を仕立ててあげてたので、俺はイリアさんと一緒に酒を飲んで、この日は終了した。

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