第13話 巻き戻しと強化。

 時間を巻き戻すことができれば……。

 人質の女性からは血が流れ、カレンは敵国の勇者の攻撃を受け……この国は最期を迎えることになった。

 ……現実でもあり、非現実でもある目の前の光景を変えることができたかもしれない。

 

 「君って奴は……」

 真っ暗になった俺の視界に一筋の光が現れ––クソジジイが登場してきた。

 「ワシがあんなにも言ってたっていうのにのぉ~……まっ、こうなるのはしょうがない部分はあるわな。人の優しい国王だからこその結末じゃな」

 俺は何も返事ができない。すると、クソジジイは説教臭く更に話を続ける。

 「真っ当な人間は結局のところ馬鹿を見る。君じゃって~この世界の前にいた時に痛感したじゃろ?好きだった子が簡単に股を割るような子だったことに。ずるがしこい奴が上に立つ……そんな世の中ってのはどこでも一緒じゃ。ほれ、喋ってみぃ」

 「……くそっ」

 「お~、そうなるのは必然じゃろな。……さて、ここからが本題なのじゃが」

 「なんだよ」

 俺は目の前に広がった光景……血が流れ、泣き叫ぶ人達の声が––頭から離れないままでいた。

 「チュートリアルは終わりじゃ……あ、チュートリアルってわかるかの?ゲームとかでよくある操作説明みたいなもんじゃ」

 「……は?」

 「だから、チュートリアルは––」

 「そこはいいんだよ」

 「……オホン、この世界も変化が必要なんじゃ。実際、この前話をした時にも言ったとは思うが……転生させても元の世界に戻りたい薄情な奴がいると。ワシ自身も別にそこを攻めるつもりはないのだが、この世界も生きている。見極めるべきことは見極めなければならぬ」

 「……」

 理解できない。

 「ってことで……この世界をリタイアしてもいいし、やり直しもできるが……どうする?」

 「は?」

 「どう考えたって、これはゲームオーバーじゃ。ワシだってそんな悪で染まった世界なんぞ面白くない。ならば、少しだけ巻き戻してやろうかと思ってなぁ……元の世界に戻る選択肢も設けてやるぞ?かなりの重労働になるからのぉ」

 「……」

 「どうする?」

 クソジジイは俺の理解が追い付かない状態で迫ってくる。

 俺どうするべきなんだ?どうしたい?

 別に俺が終わるわけじゃない、ましてや良い方向に元の世界で転がるかもしれない……。

 「俺は……」

 その後の言葉が出てこなかった……。

 「はぁ……まあ、難しい選択じゃからなぁ……。そうじゃ、良い事を思いついた!」

 いつの間にか持っていた酒を一気飲みし––クソジジイは俺に最後の提案をしてきた。

 「ハッピーエンドで締めくくりたいじゃろ?それとも、君は鬱エンドやバッドエンドで終わらせたいか?そうであったら別にいいんじゃけど……嫌であれば、君の能力にデバフをかけてやろうと思ってな?」

 「デバフ?」

 「そうじゃ!ゲーム好きじゃないと分からないか……チートみたいなものと思ってくれていい。おぬしの力“応援する力”というのは応援した相手の力を大きくすることができるが……ずる賢い奴には無力なのがよーっくわかった。だから、おぬしの力をこの世界で一番強くして、対抗できる術を時間戻すから身に着けるというのはどうじゃ?ムフフな事も再度できるし……良い条件じゃろ?」

 「……確かに」

 それに、目の前の光景を二度と見たくない。

 「ってなわけで、おぬしにはこの世界に残って欲しいのじゃ~……ワシだけだと手が回らないのでな……」

 「……お前がこの世界の神様じゃなかったのか?」

 「創った一人じゃ。おぬしの世界だって複数の“神様だ”って言われる奴いるじゃろうもん。それじゃ」

 「意味わかんね」

 「まあまあ!とにかく!!残ってくれるってことでいいんじゃな?な!?」

 クソジジイの圧に––俺は頷くしかできなかった。

 ……まあ、元の世界に戻ったとしてもこれ以上の楽しい世界はないだろうし。


 「じゃあ、決定!!」

 クソジジイはそう言うと、俺とクソジジイの周りは巻き戻していくかのように––世界は戻っていった。

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