第12話 試合開始と遊び

 球場内の歓声は万年クラスのプロ野球チームの如く、盛り上がりに欠けていた。

 まあ、それは普段戦うことをしない国民の皆だからだろうけど……あまりにも静かすぎる。


 ちなみに、この試合は俺のいた世界と同じルールで行われるようだ。

 「えーっと……」

 今は俺らの国が守備、相手国が攻撃を行っているのだが––どうしたらいいのかわからない。

 いや、わかってるんだけど……自分以外の方に何ていえばいいんだろう?

 「み、皆さん!“頑張れ~”“いけいけー”とか場を沈めないように声を出してもらってもいいですか?」

 俺は俺と同様に––困惑している国民の皆様にお願いをした。

 

 「あと、僕らはチームです!皆一体となって頑張りましょう!!!俺達ならできる!!!!!!」

 「おー!!」

 俺の声につられるように……無理矢理にテンションを上げて、応援を開始した。

 俺自身も、その声につられるように段々と声を張り上げていく。

 

 試合は初回から3回までは0点で抑え込むことができた。

 でも、俺らの応援の力のお陰というよりも……何か相手が弄んでいるような感覚があった。

 それでも、国の皆は一生懸命に頑張る勇者達の姿に––段々と試合に没入し、声が大きくなっていく。

 

 『これを待ってたんですか?』

 脳内でイリアさんが俺に問いかけてくる。

 そうです。そうすれば自分自身の力にもなりますし……第一、数字にならなくてもやっている皆は大きな力をもらえるでしょ?

 『大きな力ですか?』

 目には見えない力です。勇気や元気……色々な力が入ると思うんです。

 「そうですね!」

 声に出してイリアさんは、俺に同意してくれた。

 

 そんな、俺達が会話をしていると––試合は段々と膠着状態となってきている様子だった。

 こちらの勇者は精いっぱいに、敵国は余裕がなく焦りとなってプレーが雑になっている。

 ……それでも、試合はどちらも点がとれないままで7回までやってきた。

 案外、実際も野球観戦とかするといつの間にか試合の終盤になってること多いけど、改めて熱中しているとそうなるんだと実感した。


 「ほら、タカシさんの出番じゃないですか?」

 イリアさんは今まででも目一杯声を張り上げ、応援し––選手に数字を与えてきた俺に期待の目を向けてくる。

 「え?」

 「ほら、ココで力出さなきゃ!!勝てません!」

 ……ターニングポイントというやつなんだろう、俺でもわかる。

 この状況を打破するには––俺の力が必要なんだ。


 「では、私がタカシさんの声に変化を与えますね」

 イリアさんは俺の喉元めがけ––白い光を放ってきた。

 「……はい、では声を出してみてください」

 「あー……あ!?え?お、女の子の声!?」

 「ふふ、これを望んでいたんでしょ?」

 「そ、そうですね」

 確かに求めてたけど、実際自分の口から可憐な声が聞こえるのは……気持ち悪いもんだな。


 「さ、私達の攻撃ですよ!応援、応援!!」

 「あー、あー……頑張れー!!!!打ってーーーー!!!!」

 俺は違和感だらけの声で、勇者に応援してみた。

 勿論、今まで通りに同じ数字の応援が突き刺さるのだが––表情が違う。

 『……やっぱ、男って女の子が好きですよねぇ……』

 イリアさんは呆れたような声で、俺に語ってくる。

 まあ、俺も男なんで……気持ちはわかる。


 女の子からの期待って……正直奮起する。

 だからなのか、応援した勇者はど真ん中に来たボールを引っ張り、大きな放物線を描いて––ホームランを打った。

 ……男って本当、正直者だよな。


 まさかのホームランを打ち––球場のボルテージは最高潮に達した。

 俺のお陰もあるかもしれないが、きっと国民の皆の力が一番の戦力なんだ。

 「勝てるんじゃないか……?」

 そんな気持ちと現実が段々と大きくなっていく。

 それは、俺以外の皆も一緒だった。

 「勝てる!」「稼げる!」「いけるはず!!」

 応援団の皆の声も、更に大きく––勇者達の力となって“終焉”へ向けて加速させる。

 

 それを、面白くないのと思っているのは……敵国なのは間違いない。

 ましてや、格下と思っていた相手に先制点をあげられ、終わりが見えてきた。

 イリアさん曰く、国を賭けた対戦を自ら言っていた奴……偉い奴?なんてマジで墓穴を掘っている状態だからな。

 『……まずいですね』

 内心、ざまあみろと思っていた矢先にイリアさんは語り掛けてくる。

 ……何故ですか?

 『人質ですよ』

 残り2アウトで終わりになる状態のなか、相手ベンチの中では首に鎖を着け、両手を後ろで縛っている女性が出てきた。


 ……なるほど。

 俺は、この時点で––このヤキュウが遊びだったことを悟った。

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