第11話 試合の合図

 「この国の運命……」

 カレンは朝から何度もつぶやいている。

 実際は、カレンが“監督”という立場ではあるのだが––お飾りのようなもので、実際は選手の力と……俺の力が運命を握っているといっても過言ではない。

 でも、王女としての立場が焦らせているのだ。

 

 この家から見える––決戦の場所には続々と国民や他国の観戦者が列となって入場している。

 俺はというと、王女がそんな状況でいるのと……対戦する隣国の一行が入国した連絡が入るのを待っていた。

 待つ理由は簡単だ––不正をさせないためだ。

 先日、約束していた“国民全員参加”を守ってくれた国民の隙を狙うかもしれない……その不安が残っているからこそ、王女は戦う前から戦っている。

 『もし、何かしてても君達だけではどうしようもないだろ』

 なんて思う奴がいるかもしれないが……大丈夫だ。任せろ。

 王女は、唯一と言ってもいいほど数少ない交流のある国へ––見回り強化を願い出ていた。

 応援は参加できない……ということだったが……。

 そして、何か球場じゃない場所で起きた際は––俺が応援することで力を与える!コンボだドン状態にさせるのだ。

 だから、俺らは今も球場には入っていない。


 では、チームは……?

 そこも安心してほしい、イリアさんとルーナさんが国の住民や選手を球場へと連れて行ってくれている。

 エルフの事だから……きっと、俺には明かしていない能力があるんだろうし。


 「……どうしましょ。落ち着かない」

 「少し座って落ち着いて」

 うろうろと歩き回るカレンを近くのソファーに座らせ、お茶を淹れてあげた。

 それを、カレンは一口飲んで……ため息をついた。

 「負けた時のことを考えると……両親の仇を取りたいのは山々なんだけど……。私個人の気持ちでやってよかったのか……そんな後悔が頭の中でグルグルと回ってる」

 「……」

 俺は何も言えなかった。軽い言葉で返したくはなかったから。

 「タカシさんも巻き込んでしまって……ごめんなさい。でも、タカシさんが来てくれて、本当に運命なのかもしれないと思ったの」

 そう言って、俺に抱き着いた。

 「……今日、全てが終わればいいな」

 まだ力のない一人の少女の言葉が家の中で響いた。



 そこから、数分後。

 俺達に“入国し、球場に入った”との連絡が来た。

 詳しい話をすると、何かをしようとしてたようだが、他国の目があることを察知し、止めたようだ。

 俺達は、被害がなかったことに胸をなでおろしたが––直ぐに違う緊張感が襲ってくる。

 「さ、本番だ」

 俺が小さく呟くと––カレンも頷き、家から球場へと向かった。

 「……頑張りましょう」

 国の未来を左右する王女の言葉は、凄く重かった。


 

 球場へと入ると、多くの国民が試合を待っていた。

 俺は、そんな球場の外野席へ。カレンはベンチへと足を向けた。


 「お!きたきた!」

 自国の応援席の方に行くと、イリアさんが手を振って俺を出迎えてくれた。

 イリアさんの後ろには、この国に来て初めて世間話をしたお婆ちゃんや告白していた男子等……色々な人がこっちに笑顔で、イリアさんにつられるかのように手を振ってくれていた。

 「…あ、どうも」

 注目されることには、演劇もしてたから慣れているはずなんだけど––今は凄く人見知りのようになってしまった。

 『え?人見知りじゃん』

 脳内にツッコミをするイリアさんを俺は無視し––

 「今日は……絶対に勝ちましょう…勝ちます!!」

 言葉はおかしいが、俺が宣言する。

 すると、国民の皆は大きな声で“おー!!”と言ってくれた。頼もしい。


 ……ところで、隣国で敵国でもある相手は俺達を舐めている。

 相手側の外野席は空席に近く––応援団も3人程しかいない。

 カレンの両親がいた時よりも……確かにこの国の戦力は減っていると思う。

 でも、あまりにも舐めすぎてはいないか?

 『まあ、この国に本気だしてもメリットはない……ってことなんでしょうね。選手の皆も見てみてください』

 他の国民には聞こえないように、俺の脳に直接語り掛けるイリアさんの言葉で俺はベンチに目を向ける。

 すると、そこには––試合前だというのに、真面目にストレッチすらしない相手国の選手がいた。

 『これが私達の国と隣国の違いです』

 簡単な言葉で片づけているが……悔しいだろう。

 

 一方、俺達の国の選手は真面目にストレッチをし––今はノックを受けている。

 王女も試合の為の服へと着替えて、そんな選手たちを硬い表情で見守っていた。


 本来、俺がいた世界の“野球”はスタメンの発表等があったりするんだが……ノックを終え、今は王女と相手国の国王?みたいな奴が球場内に設置されたテーブル上で契約書のようなものにサインと交渉を行っている。

 口元で何を言っているのかわからないが……イリアさんならわかると思う。

 俺はそんな期待を込め––イリアさんを見つめると、“やれやれ”といった表情で口を開いた。

 「カレンさんは“この試合に勝てば、今後一切の干渉を行わない事”を条件にしています。一方、相手国は“それでは面白くない。国を賭けましょう”と言っているようですね」

 「国を?」

 「はい。別に一定の法を犯さなければ許されますので……国を賭けるも合意があれば大丈夫です。王女も最初はそう言ってたはずなんですけど……プレッシャーがあるのでしょう」

 「そっか」

 「あ、結局王女も同意しましたね。……なんか、脅されている感じもしましたけど」

 俺から見ても分かる程……カレンの顔は強張っていた。

 「……成立ですね」

 イリアさんが言うと、選手がグランドへと散らばっていく。


 「試合開始です」


 急に始まった国盗り合戦に––俺は戸惑いつつ、入り込んでいった。

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