第10話 物語を紡ぐ

 “人間は時に残酷なものだ”と小説とかアニメとか……色々なところで言っていた。

 それは、まさにそうだと思う。

 

 もし、今まで生きていた中で「裏切ったことない」って胸を張って言える人なんて……いるわけない。

 いるんだったら、そいつは都合の良い事だけを見ているのか、忘れん坊なんだろう。

 ……って、なんでそんな事を回想しているのかというと……この感触を忘れていたいからだ。


 「うぉ~!!!流石、ワシが見込んだ奴じゃ~!!」

 酒臭いのと、体臭と、肌が俺に直に触れるし……いや、何で硬くしてんだよ。

 俺はそんな神様というクソジジイの腕の中に……抵抗できないでいた。

 ……いや、決してそっちの気があるのではなくて……力強すぎんだよ。クソジジイが。

 「は、離せ……!!!」

 「ワシの目は節穴じゃなかったー!!」

 「……は、吐きそう……」

 色々な臭いで、俺は気を失いかけた。

 すると、グロッキー状態の俺を見て、クソジジイは俺を離した。

 

 「すまんすまん。君の前に来た子は本当に上っ面人間だったんでの。まあ、元の世界でどう暮らしているかは知らぬが……ちと、良い未来はないじゃろな。神様は見ておる」

 「……アンタも神様なんだろ?」

 「お、そうじゃった!そうじゃった!!」

 ……って、そんな話をしている場合ではないじゃん。


 「俺以外に今この世界に来ている奴はどのくらいいるんだ?」

 「お?何故そんなこと聞くんじゃ?」

 「その前の転生者みたいな奴もいるんだろ?それに、世界は続くってなれば今回の敵国みたいなところにいる可能性だって––」

 「そりゃ、いる。……といっても、すぐにどうにかなる訳じゃなかろう?なら、君はするべきことは1つと思うんだが」

 「でも」

 「でもって言っても、残ると決めたんなら……君の作るべき物語を紡ぐべきじゃろ」

 「……」

 「さて、ワシはちーっとだけムフフな事してくるかの」

 そう言って、クソジジイは俺の前から消えた。

 俺は、何かを聞こうとしたけど……結局は声が出ることはなかった。

 残ることは良いが、元の世界に未練がないわけじゃない……でも、約束を破りたくはなかった。


 そんな悪臭が立ち込めている中で––俺はある声が聞こえてきた。

 ……この世界にも、話好きな人は結構いるもんだ。その話好きな人……旅人がもう一人の旅人に武勇伝のように––隣国の内情を話している。

 「おいおい!この国はやべえよ!?明日、この近くの国とヤキュウするらしいんだけど……人質使って、負けそうになったら……するらしいぞ?」

 「は!?違反じゃねぇのか?」

 「そうなんだけどよ?他の国の者とかを寄せ付けないようにしてるって話だし……公になる前に、相手国の王女に降参させるって寸法らしいぞ」

 「……うわぁ、やばいな。こんなに良い国なのに」

 ……は?どういう事だ?

 俺はそんな旅人に事情を聞こうとしたが、おしゃべりな旅人は更に喋る。

 「まっ、この国の者ではないらしいし……いいんじゃね?」

 

 ……俺は、何となく察しがついた。クソジジイは適当すぎんだろ。



 「ただいま」

 夕方になる前に、俺は国へと戻ってきた。

 戻ってきている途中には国民の皆から「がんばろう!」と俺が応援団長な事を知っているかのように、話かけてくれていた。 

 「おかえり!」

 体臭疲れと挨拶疲れで……HPが10を切っている中で天使は微笑んでくれた。

 「カレンも今日疲れたんじゃない?」

 「ううん!大丈夫!」

 「そっかそっか」

 いつの間にか、カレンの頭を俺は撫で––メイドのルーナさんは怒りながら、俺の手をカレンの頭から引きはがす。

 「ちょっと!!……コホン。明日が本番ですので、今日は栄養をつけて、たっぷり睡眠をとってもらわないといけませんので!……タカシさんはお風呂に行ってきてください…」

 カレンの手を引いて、食堂の方へとルーナさんは連れて行ってしまった。

 俺、そんなに臭いのか?

 「……あらあら。ルーナさん怒ってますね~……そりゃ、そうですよね。昨日は大変でしたもん」

 俺はそんな2人の背中を追いかけることもなく……背中の方からエルフのイリアさんの声が聞こえたので振り返ると––“やれやれ”といったポーズをとっていた。

 「お疲れ様です。いよいよ明日ですね……って、その前に色々とあったみたいですね」

 「どこまで聞いてたんですか?」

 「んー、全ては聞いてはないですけど……長く生きていると分かるんですよ。……世界って案外残酷なものです」

 「人質は本当なんですか?」

 「そうですね……恐らくは本当でしょう。ルールを守る国が大半なのですが、国を大きくするために手段を選ばない国もいますので」

 「それに、俺が想像していることなんですけど––」

 「タカシさんと同じ“転生者”……ですよね?多分、それも当たってます」

 「……やっぱり」

 確信に変わったからなのか、俺の体は更に重くなる。


 「まあ、明日です!明日勝てばいいのです!!」

 

 暗い顔をした俺を見て言った言葉は……俺に響くことはなかった。

 ……それでも、時間は刻一刻と迫る。

 俺はお風呂に入り、食事を摂り、カレンとの夜の会話をし––朝を迎えることとなった。

 

 「“物語を紡ぐ”…か」

 何となく発した言葉だが、俺はシンプルな答えを見出した。


 

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