第9話 神様
胸の高まりは……これは、なんなんだろう。
恋?恐怖?それとも…?
俺はそんな感情を抱きつつ––カレンの部屋のドアをノックした。
「どうぞ」
俺がノックして直ぐに部屋から声が聞こえ––カレンはドアを開けてくれた。
俺がこの時間に来ることを察していたかのように。
「さ、とりあえず座って」
そう言って、部屋の中心に置かれているソファーに俺とカレンは座り––
「飲めますよね?」
赤ワインを取り出し、2つのグラスにそのワインを注いだ。
「え?飲めるの?」
「私、悪い子ですから」
小悪魔的な笑みを浮かべ、カレンと俺は乾杯した。
俺は、その注がれたワインを一口飲んだ……苦い。
カレンはというと、ちょびっと飲んで––グラスを置いた。
「……本当は飲めないんでしょ?」
「えへへ、私も大人になりたかったんだけどなぁ」
「無理はしないでいいんだよ?これから、ゆっくりと慣れていくんだから」
「でも…でも……!!」
カレンの声は段々と大きくなって––
「もうすぐ……もうすぐなんですよ?私がこの国の運命を変えてしまうかもしれない……そんな気持ちの中で私はどうすればいいのか……。タカシさんも見たでしょ?この国の力がどんなものなのか」
カレンの表情は––幼い子供のような、感情をコントロールできないようだった。
「そんな状況の中で、虚勢でも“勝てる”なんて言わなきゃいけない。それに、私は見たんです。母が記した日記を……そこには、今までの全てが書き記してありました。この国の終わりも……タカシさんみたいな人の事も」
「俺みたいな人……?」
「はい。実は昔にも同じように“転生”された方が何人もいたらしいです。その方達は一生懸命にこの国に尽くしてくれました。しかし、ある時です……状況は一変したと」
「……」
「今も敵対している国との戦いがこの時期からでした。その国が攻めてきたのです。その時––“転生者はこの国を捨てた”と……」
「捨てた?」
「はい。詳しくは記されていませんでしたけど……その内容が今のタカシさんにそっくりで……段々と怖くなってきて。本当に……怖い」
「……大丈夫だよ」
俺には何を言えばいいのかわからず、適当な言葉で励ますしかなかった。
「何を信じて大丈夫と言えるの!?……ごめん。でも、私は段々とこの国の為に頑張ってくれている姿を見て……正直に言えば、失う事は嫌だと思ってしまった。この生活は確かに苦しいです……でも、この生活が続けることができるなら……この以上ない幸せなんだと思う。だから、タカシさんを呼んだんです」
「そっか」
子供のカレンと、王女としてのカレン––様々な顔を見せ、俺に言ってくる。
俺はそんなカレンに対して、本当になんて言えばいいのかわからない。
確かに、この国に来た時に……違和感はあった。
受け入れる事だったり、長年生き続けているエルフが転生を知っていたり––様々な違和感が……ここで少しづつ解決していった。
「私はタカシさんを信用してもいいんですよね?両親みたいな……そんな未来はこないと、絶対に勝てると思っていいんですよね?」
「大丈夫。俺は絶対に裏切ることはない。それに、俺が頑張れる事は精いっぱいに頑張るから……皆で勝とう!!」
多分、エロゲとかハーレム漫画なら“俺に任せろ”とか言うんだろうけど……俺には自信がなかった。
でも、自分の気持ちは伝えたつもりでもあった。
俺の言葉を聞いたカレンは––子供のように泣きじゃくるわけではなく、一国の王女として言葉を紡ぐ。
「……絶対に勝ちましょう」
その顔は、この国の未来と両親の仇を取るような……そんな覚悟の顔だった。
そして、その顔は一瞬に少女の顔へと変貌し––
「私はタカシさんがいれば大丈夫って思えるようになったの。この国の運命を変える……いや、私達の運命を変えてくれるんじゃないかって。まあ……凄く個人的な部分もあるんだけどね?」
そう言って、カレンは俺に覆いかぶさるように抱き着いてきた。
「ちょ!?」
「私も女の子ですから」
……そこからの記憶は正直言って……あるっちゃある。
でも、ギャルゲーみたいに友好度がカンスト状態なのかは……後々分かる事だった。
翌日、王女は早速国民全員に“応援の参加”をお願いしてくれていた。
反応としては、最初はそこまで良いものではなかったようだけど……長年生き続け、人前にはあまり出たがらないエルフ族のイリアさんが協力をするというと反応が著しく良くなったらしい。エルフってすげぇ。
俺はというと、そんな要請の前に気になることがあったので国外へと足を運んだ。
「……他の転生者……か」
夜にカレンが言っていた––前の転生者––裏切った事の理由を知りたくなったのだ。
なので、俺は明日戦う隣国の近くまで自転車に乗りながら来てみたのだけど––
「ここ…?」
目の前には、寝泊まりしている国の倍以上の面積をほこる場所に着いた。
「……っと、偵察とかはダメだしな」
勇者の大半はダンジョンへ、商談する国の者とかも他国に交渉に行ってるらしいけど……怖いから入るのは止めておこう。ゴーレムが徘徊してるし。
じゃあ、どうするべきか……
「とりあえず、待ってみるか」
独り言のように呟き、国に入っていく者の観察をしてみることにした。
……でも、そこには俺と同じような“転生者”らしき人はいなかった。
「……どうなってるんだ?」
謎が深まった。
国を裏切るってことは、明智光秀のように……何かの裏があったり、自身に利益になることがあるから裏切るはず。
なら、敵国に寝返る事が……ヤキュウだと考えられるはずなんだけど……。
「アンタは案外頭冴えるの~」
俺が考えをまとめようとしている所に……背後から声が聞こえた。
「臭っ……何でいるんだ」
転生させたクソジジイが、今回も酒を飲みながら話しかけてきたのだ。
「心外じゃわ。この酒は良い匂いがするんじゃぞ?ほれ、飲んでみるか?」
「いりません!」
「ふん!あげる気もないわい。……ところで、王女とはヤったのかの?」
「なんで答えなきゃいけないんだよ」
「わっはっは!まあ、そうじゃろな。……ま、知っているから良いんじゃけど」
「は?」
「おろ?知らんのか?この世界の話」
「転生者がいるってのは聞いたけど?」
そう答えると、クソジジイは酒を一気飲みして––
「そうじゃ。そして、その転生者は元の世界に戻っておる」
「は?どういうこと?」
「……そうじゃな~……うん。簡単に説明してやる。この世界を作ったのは……ワシじゃ。ワシがこの世界の基礎を作った」
「話がついていけないんだけど?」
「簡単に言えば、ゲームにも小説にも“起承転結”というものがあるじゃろ?何かがあって、物語は動き、そして終わる。それを、ワシは君みたいな転生者で紡いでおる」
「……じゃあ、俺も戻る可能性があるってことか?」
「そうじゃ。でも、それじゃ、ちーっとも面白くないじゃろ?クソゲーすぎる世界じゃ。なので、ワシは複数の面白要素を取り入れているんじゃが……わかるかの?」
俺は、何となく理解していた部分を答えていく。
「まず、すんなりと違う世界から来た者を受け入れていたこと。そして、何故かゲームみたいに友好度がバグってる」
「ほお、わかっとるじゃないか。まあ、童貞君なんでちーっとばかし能力や環境や友好度はバグらせておいたがのぉ~よかったじゃないか、女子の股割って」
「うっさい」
「他には気になったことはあるか?」
「そうだな…色々とあるけど、言葉にするの難しい」
「そうかそうか……では、答え合わせをしてやろう。明日の決戦はおぬしには関係のないことじゃ」
「は!?」
「昨晩、王女が言ってたじゃろ?あれはつまりは『決戦前に元の世界に戻る』という選択をしたのじゃ。ワシが今こうやって出てきてな」
「……ということは?」
「ワシも気まぐれなところがあるのでな~“筋書きのないドラマ”というのを作りたくなるのよ。だから、こうやって出てくる理由を適当に作ってな?“元の世界に戻りたいのか”と聞いたのじゃ。すると、アイツは即答だったよ“はい!”って。この世界のことなんてどうでも良いと言わんばかりに」
クソジジイは酒を再度出して、一気に飲み干した。
「ってなわけで、君はどうする?ここで帰ったとしても、元の世界には何の影響もでないようにはできるし、ましてや良い方向にでるかもしれぬが……ほら、あの子の股も割りたいじゃろ?」
「……」
「で、どうする?言っておくが、元に戻った後もこの世界の物語は続くぞ?極力は血が流れるとかはないようにはするがの」
俺の答えは一言だった。
「ふざけんなよ。俺は、最後までやる」
ここでの言葉には自信があった。
そして、クソジジイは俺を抱いた。
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