第8話 勝つ方法

 「ふぅ~……」

 カレンの計らいで、俺は女性達が入浴していた湯舟に浸かっている。

 本当は、直ぐにでも話すべきだと思うが––

 「ゆっくりすることは大事だよ?」

 ……そう言われたら、男はやることは一つだよね。

 

 といっても、ここに女性が––山が6つもそびえたったわけだぜ?

 「気持ちいいわぁ」

 ある意味、スッキリしたし––悶々するわ。

 俺は……そこから一時間近く湯舟に浸かっていた。



 

 ……ふぅ、ゆっくりできたわけだし……ここからは色々と動かなきゃ。

 「イリアさん、さっきの事なんですけど」

 ルーナさんが浴衣のような服を用意してくれていて、俺はそれを着ているのだが––

 『え?襲いたいって事ですか!?』

 なんか、ずっと盗聴してくるストーカーみたいじゃん。

 ってか、浴衣を着ている人たちに謝れ。

 「冗談ですよ。冗談♪」

 ……まあ、俺も未だに悶々ありますのでね。今回は見逃しますよ。

 「でも、あの事はちゃんと考えといてください」

 「あー、アレですね。考えておきます」

 ギャルゲーみたいな世界だけど、俺には刺激がありすぎなんだよ!!

 「ふふ♪とりあえず、話を戻しましょうか」

 そ、そうだよね。今はそんな時じゃない。

 「イリアさんって声を作ったり、声を変えたりするとかできませんか?」

 「うーん……できることはできますけど……それって、タカシさんの能力に何か変化があるとかはないですよ?禁止されている部分もありますし」

 「確か、相手の感情とかサインを読んで伝えるとかは禁止なんですよね」

 「そうですね」

 「俺はそうじゃなくって、俺の声を女性の声にしたりとか、多人数いるみたいな状態にしたいんですよ」

 「なるほど?」

 そう言って、俺は計画を脳内で会話した。

 すると、イリアさんは「へぇ」と言って了承してくれた。


 

 「カレン、ルーナさんにも話があります」

 そう言って、俺は各々仕事をしているカレンとルーナに呼びかけた。

 きっと、今日の模擬戦の反省点とか……現実的な事に頭を悩ませているだろう。

 「実は、お願いがあって」

 「お願い?」

 「はい、決戦の当日はできるだけ多くの人を球場に呼んでほしいんです」

 「……でも」

 この国は貧困なため、国民各々が仕事をして生計を立てているわけだが……皆優しいため、敵対することが好きではない様で応援はほぼほぼしないらしい。

 そして、王女のカレンはこの国の現状を更に詳しく説明する。

 「この国の大半は応援する能力を持ち合わせていない。ましてや、応援には不向きなゴーレム等が多数いるし……」

 実際、貧困で出ていった者が多いようで空き家も多少見受けられた。

 その能力を穴埋めするかのように、王女達はゴーレムを他国から獲得し––仕事のパートナーとして活躍させているとお節介好きな散歩していたお婆ちゃんが言っていた。


 「なので……あまり戦力にはならないけど」

 カレンの声は自信なさげだった。

 まあ、普通に考えればそうだよね。

 「大丈夫だよ。勝てるかもしれない方法があるんだ」

 「……なに?」

 カレンではなく、ルーナさんが聞いてきた。

 「えと……確実ではないんですけど、イリアさんの能力を使って、応援団を形成します。僕の声を複数人いるようにしたり、場合によっては声を女性にしてもらうという形で」

 「それで?」

 「それでも人数がいないと迫力や勢いってのは足りないのです。数って本当に大事なんです。なので、国民の皆様が来ていただいて空気を作ってほしいんです」

 実際、高校野球なんて“観客を味方につけた方が勝つ”とも言われているわけだから人数って声と同じくらいの力があるんだよね。

 

 「……わかった。明日に国民全員にお願いしてみる」

 カレンはそう言って、俺の目をじっと見つめて来た。

 「……後で、私の部屋へきてください」

 いきなりの言葉に俺は……正直、色々な妄想をしてしまった。


 『気持ち悪いこと考えないでください』

 脳内ストーカー化しているイリアさんの言葉が来るまで、俺は硬直してしまった。

 そして、脳内でイリアさんは付け加える。

 『ほら、ルーナさんの顔……私が食い止めときますので』

 鬼の形相の、お嬢様命のメイドは怖かった。助かります。



 そこから、1時間程経った頃。

 俺達は遅めの夕食をとることにした。

 貧困の国だけど……こんなに豪華でいいのか?魚も肉も、本当に色々とあって美味しいけど。

 「この国は他の国と違って唯一自然が汚染されてないの。それに、この国の皆本当に働き者だし、優しいから」

 カレンはふいに俺が思ったことを悟ったかのように答える。

 「だから、いっぱい食べて?」

 少しだけ悲しげに笑うカレンの顔に……俺はドキドキが止まらなくなった。

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