第7話 模擬戦開始とお風呂。
日本のプロ野球球団の応援団は無報酬と聞いたことがある。
でも、俺は応援を“職業”としてやらないといけないので……余計に難しい。
「かっとばせー!」「ホームラン!!」「ナイスピッチー!!」
……色々とあるんだけど、全員が全員同じで良いわけがない。
だって、日本の球団でも選手一人一人に応援歌とかがあるわけじゃん?
ジャンプしてたり、タオルでダンスしたり……球団や選手毎にあるわけじゃん。
「うわ~…どうしよ」
この国は––貧困もあってなのか、勇者等の選手の在籍数はここ数年で多くはないらしい。
それに、隣国の引き抜きもあってか……俺が見ても“ヤバい存在”はいない。
じゃあ、何に期待がかかるかって?
「応援で選手の個性を引き上げろよ!?」
……ってことだと思う。王女とかは良い風に言っているけど、万年最下位のあのチームみたいだぞ?これ。
「……まあ、適当な応援しながら見てみるしかないよなぁ」
そう呟きつつ、俺は模擬戦の試合開始の合図を外野席らしい場所で待った。
「では、模擬戦を開始しまーっす」
監督を担う、この国の王女カレンは球場のバックネット裏から大きな声で言い––
「プレイボール!!」
何故か主審の恰好をしている、メイドのルーナが右腕をあげた。
「さ~って…」
実際、俺はこの世界に来る前は小さい頃に親父に連れられて野球観戦に何度も行ったことがある。
本当、小さい頃は“応援団長もいいな”なんて思っていたけど……これ、本当はキツイのかもしれない。
「打ってくれー」
俺の小さく言った言葉が打者の体内へと数字となって入っていく……でも、結局は三振。
「かっとばせー」
次の打者に言った言葉も数字となり……結果はファーストゴロ。
「ホームラン打ってくれー」
2アウトからだけど、見るからに打ちそうな打者に言った応援は……三振。しかも、届きはしなかった。
「んー……」
自分なりに試したことでもあった。声量や応援の質がどのくらいの影響があるのか……。
でも、やっぱりその場の状況に合わせた応援って難しい。
「応援って案外難しいものですよねぇ」
「うううぇ!?」
隣にいつの間にかイリアさんが座っていた。ってか、考えている事を見透かさないでくださいよ。
「実は私も応援とかしたことないんですよね」
「え?エルフなのに?」
「うわー、それ何か心外です。エルフにだって勇者様と一緒に旅する者もいれば、関わろうとしない者だっているんですよ?」
……ってことは、イリアさんは後者ってこと?
「んー……私はどっちなんでしょうか?前に勇者様との旅もしたことありますし、何百年と引きこもって色々な文献とか漁ってた時期もありますので」
……マジで俺の脳内読むのに慣れない。
それに、イリアさんはこの国にいるのにヤキュウ見てないの?
「……結果が見えているものを見たいですか?例え、奇跡を信じて応援して……負けた時のショックって想像以上じゃないですか」
「あ、ご、ごめんなさい」
少しだけ怒っているから謝っておこう。
「まっ、救世主様がいるので!私は補佐的な役割をしつつ、目の当たりしようと思います」
そう言って、俺の脳内を覗き身していたイリアさんは自分自身のメモ帳に何かを書いていた。
さて、俺がイリアさんと会話していると2回裏が終了していた。
……まあ、見なくても波を立てられるような勇者達はいないし、結果を見なくても想像できた。
「0対0ね。投手は頑張ってる……のかな?」
今更だけど、投手はどうなんだろうと思って投手にも応援をしてみることにした。
「ナイピッチー」
今回も小さい声で応援する……、結果は三振だけど、コントロールが悪い。真ん中高めへと––所謂、打者にとっての絶好球となっていた。
「三振三振」
次の打者の時に言ってみた……結果はサードゴロ。でも、バットの芯を食っているような感じがする。力がないから飛ばないけど。
「打たせていけー」
……うわー、凄い綺麗なヒットじゃん。って、打者コケてアウト?
そんなこんなで、この模擬戦は終了した。
俺は今日の模擬戦で色々と収穫があったと思いたい。
「……いや、なきゃダメなんだけど」
カレンが俺の手を握って、俺達の家へと戻りながら呟いた。
「お風呂入ってきます」
そう言って、俺以外の3人……カレン、ルーナ、イリアは家の風呂場へと歩いていった。
何故か、この家の全体はそこまで大きくないんだけど……風呂場だけはめっちゃくちゃ大きいので3人なんて余裕なのだ。
……あのさ、俺は童貞でも見るわけ……な、ないよ?
俺の中の自制心と戦いつつ––俺は今日の事を振り返るようにメモを取る。
「これ……決戦まで2日しかない以上、勇者一人一人の個性とか見つけていくのは不可能だよなぁ……でも、皆同じだと勝てるわけないもんな」
一応、俺は隣国の……敵国の戦力がどのくらいなのか把握はできていない。
なので、俺は現実世界で見た事のある……昔の100打点カルテットとかダイハード打線とか呼ばれていた––あの球団をイメージしながら今回の模擬戦の状況を照らし合わせた。
「んー……これしかないのかなぁ」
俺は、ある仮説を立ててみることにした。
……あの、入浴中ですかね。イリアさん。
『……変態ですか?』
違います!!
『まあ、皆様凄いキレイなボディーラインですよ。残念ですね』
うっ、今はそんな事じゃなくって……あ、でも想像するんで後で教えてくれたら––
『で?なんですか?』
……あの、イリアさんって他に能力とか隠してないですか?
『ほぉ~……何故ですか?』
ゲームとかだとあるじゃないですか?“秘めたる力”みたいなやつ。イリアさんにもあるんじゃないかって思いまして。
『まあ、ゲームで例えて話たのは私ですしね。凄いですね、そこまで考えるなんて』
……ってことは?
『ありますよ』
やっぱり!
『……あの、この話は後ででいいですか?カレン様のが当たってて……凄く良い気分なので』
……詳しく……いや、やめとこう。
悶々する気持ち……行ったことないけど、大人なホテルとかで待っているみたいな気持ちで––俺は3人が風呂から上がってくるのを待った。
2日後の決戦に向けて、新しい応援を伝えるために。
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