第5話 決戦は3日後
「いただきまーす」
イリアさんから預かった鏡は、大広間の端へと飾り––俺達四人は食事を摂ることにした。
急に登場してきたイリアさんだったが、メイドのルーナさんはご飯の用意をしてくれていた……流石、メイドだ。
「わざわざ、すいません」
「いえいえ、エルフは肉等は召し上がらないと伺いましたので……少しみすぼらしいですけど」
「そんことないですよ!嬉しいです!!」
「よかったです」
そんな会話をしつつ、俺達はご飯を食べ進めた。
……この世界も、お箸の文化はあるんだ。食事も少し和風な気がする。
「ふぅ~…美味しかったぁ~…」
俺達四人は各々のスピードで食べ進め、食事を終えた。
すると、ルーナさんが俺とイリアさんに果実酒を。王女のカレンさんにはブドウジュースを各々の席へと置いて、食後の優雅な時間を醸し出してくれた。
それを、俺は少し飲んでみたのだが…これ、美味しいな。
「この果実酒美味しいですね~…あっ、忘れてました。お話があるんですよ」
俺と同じような感想を述べているイリアさんは会話を開始させる。
「タカシさんから色々な情報は共有させていただいたのですけど……王女様、ヤキュウの決戦は近日中に行いませんか?」
「というと?」
王女ではなく、メイドが返す。
「恐らくですが、この国への応援団派遣を中止にさせたのは隣国です。自国の勇者を派遣するなどの交換条件で成り立っていると予想します」
「…ほお」
「となると、戦力が均衡になっている今がいいかと。それに、隣国は“自分達の国になった前提”として色々な話を近隣国に持ち掛けているようです」
「……」
王女もメイドも黙ってしまった、俺はそんな空間の中––果実酒を飲み干した。
「よくわかんないですけど…えと、勝てばいいんですよね?」
「そうですね!!」
イリアさんは、俺の空気感に乗っかるように明るい声で同意してくれた。
すると、王女達も同意するように––
「勝てばいいんです!!負ける事なんて考えたって意味ないですし!!それに、救世主だっているので!!」
そう言って、皆は俺へ視線を送ってくる。
「…うぇ!?……頑張りますので…ど、どうぞよろしく…」
…あの時の告白もこうやって、ヘタレ全開だったのか?情けない。
ズバッと決まらない宣言で––この食事は終えた。
翌日。
あの時の提案を王女は受け入れ––決戦は3日後となった。
普通は自分の戦力が整えるために、急な対戦には拒否するはずなのだが……それだけ、舐められているってことなんだろう。
そんな理不尽な提案を受け入れてくれた事を王女から国民に伝えられると、勇者やゴーレム等ヤキュウに参加する者は鍛錬をはじめた。
「勝ったら、大きな稼ぎを得られる」
そんな言葉が聞こえてくるから、自国の大きさがダンジョンのレベルの高さと比例しているのだろう。
……ちなみに、俺は何を鍛錬すればいいんだ?
『タカシさんは感覚を研ぎ澄ます練習ですかね』
……イリアさん、自分の家に帰ったくせに俺の脳に問いかけないでください。
『すいませんね。でも、決まってよかった部分と不安な部分があるので…』
なんですか?
『タカシさんは……その、女性経験ってないんですよね?』
…それが何の関係があるんでしょうか
『煩悩って言う言葉があるじゃないですか?あれって、自身の能力を妨げる事になるんです』
……。
『例えばですけど……王女様足を見て興奮した~とか、メイドさんの胸元見てムラムラした~とか…心当たりありますよね?王女様達には聞こえないようにしていましたけど』
…はい。
『それって、応援している時には邪魔な存在になるんです。なので、できれば決戦当日までに…あ、あの…その、捨ててもらう…とか、集中できる状態にしてほしいんですよ』
……無理でしょ
『無理でもなんとかしてください。先日の自転車で帰宅した際の能力のままだと確実に負けます』
……そういえば、あの後自転車なくなってたけど、イリアさんが仕組んだのか。
『私もタカシさんの能力の幅とか知りたかったので。一応、私がサポートできたとしても……今の敵国には勝てないかもしれません』
……だから、捨てろと?
『別に違う方法があれば、そちらでも構いません。現状のタカシさん以上の能力を発揮してほしいのです』
……そうですか。
俺はイリアさんに返事をすると、脳内で聞こえる声は治まった。
「……幼なじみ一筋だった俺にどうしろと…」
俺は、足元にあった石を思いっきり蹴り飛ばし––途方に暮れた。
普通のRPGゲームとかならレベル上げにダンジョンにもぐったりする。
しかし…俺の場合は何にもぐるんだ?女性の胸か?……いやいや、そんな刺激が強すぎだろ。
じゃあ、どうする?
他のゲームだと……本とかでレベルを上げるっけ?…ん?本?あったらシてるわ!
じゃあ…、え~…なくね?
元の世界だと、色々な方法がまだあるだろうけど……いや、俺には絶対できないわ。
……うーん……
悩み続けて、3時間程は経った。
夕暮れになると、この世界では寒くなるようで––俺はすぐに王女の家へと帰宅した。
ドアをあけると、昨日と同じように王女のカレンさんが出迎えてくれ––メイドのルーナさんは食事の準備をしていた。
「……ところで、タカシさん?」
「はい?」
未だに唸り続けている俺の事をスルーし、カレンさんは質問してきた。
「いつ、私のことを呼び捨てにしてくれるの?」
「はへ!?」
「立場は違いますけど、こうやって同じ屋根の下で寝泊まりしているのですよ?距離を縮めなくてはいけないじゃないですか」
「…そういうもんなんですか?」
「はい!」
「……じゃあ、カレン」
「はい♡」
……なんか、常識がエロ漫画常識みたいになっているけど…大丈夫か?
でも、カレンさんの子犬のような目や性格は本当にエロ漫画に出てきそうだ。
距離感が一気にバグったカレンは俺の腕を抱きしめるような––当たっている感触にドキドキしながら、食堂についた。
「お嬢様遅いですよ」
「にひひ、ごめんなさい」
「…は?」
俺達の姿を見て、メイドのルーナさんは硬直した。
まあ、それはそうだよね。ビックリだもん。
「と、とりあえず、離れなさい!」
数秒した後、状況を理解したルーナさんは俺らを引きはがすと––カレンを椅子へと無理やり座らせた。
「ルーナのケチ」
「お嬢様が悪いのですよ!?はしたない」
……なんか、エロ漫画の世界に見えてきて––本当に変な気持ちになる。
『……あの、国家を転覆させるような事はしないでくださいよ』
うわ、脳内に注意喚起きた!知ってます!大丈夫です!!
『あ…でも、良い事思いつきましたよ』
…?なんですか?
『タカシさん。王女様に“好きですって言ってください”って言ってください』
……ん?言ってもらうようにするってこと?
『はい!!そうすれば、きっと良い事が起きますよ』
…わかった。
脳内に問いかけられた言葉を、俺は何も考えずにカレンに向けて言ってみた。
「ねえ、カレン。俺に“好きですって言ってください”…カレンならできるはず、頑張れ」
その言葉は、カレンに向けて刺さった。
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