第2話 応援団の長になろう
異世界転生っていうのは……ラノベの世界では、ご都合主義みたいな事が多い。
実際、俺も誰にも見られないように民家に忍び込み––一番最初に開けたタンスの中から自分の体格にあった服を着る事ができたんだから。
「よっし、隠せたかな」
状態異変している俺の下半身をポンポンと軽く叩き、正常に戻しながらも民家を出ようとした。
すると、2階部分から大きな音と声がこだましてきた。
「すいません~。助けてくださいぃ~」
その声は、凄く大人しく……可憐な声だった。
「あ、この声は癒されるわ」
今まであったことを上書きして、まっさらにしてくれるような––本当に素晴らしい声が俺の耳に入ってくる。
しかし、その声は段々と状況が良くない事を説明してくれた。
「このままじゃ~…お、落ちます。落ちて、肉片になって、パンに挟まれてしまいます~…」
「あ、危ないってことか?」
この民家の中から聞こえる声を頼りに、大広間みたいな場所へと駆け付けた。
すると、二階の手すり部分で跨っている女性が一人。
それを、引きはがそうとするメイドが一人。
「……あれ?」
そんな2人の姿に、俺は肩透かしを食らった。
俺の声を聞いた、その2人は「誰!?」という声と驚きを見せて––メイドはすぐさま俺の両腕を取り、身動きが取れない状態へとさせた。股間痛い。
「誰だ!?」
メイドが痛がる俺へと質問する。
「いたた…俺、何か急にこの世界に飛ばされたんですよ」
「…ほお。泥棒にしては嘘が下手だな」
「嘘じゃないです!」
「では、何故この屋敷に忍び込んだんだ」
「……えと、裸を隠す……ためです」
「馬鹿か!?」
メイド服の女性の質問に返答するが、答えが答えなだけに締め付ける力は更に増す。
このまま……俺また死ぬのか?
「離しなさい!」
そんな諦めた表情の俺と怒りが増すメイドを止めたのは––手すりに跨る女性だった。
「これは神様からのプレゼントかもしれません!」
未だに跨ったままの女性は大きな声で言い放つと、メイドは力を緩めてくれた。
俺は、解放されていく体(特に下半身)をさすりながら、その女性に礼をいった。
すると、女性は跨るのをやめ、俺の方へと歩み寄ってきた。
今更ながら、その女性は金髪碧眼の美しい女性で身なりはちゃんとしているのだが…少しだけ、汚れているようにも思えた。
そして、俺を捕まえてた女性は褐色肌で綺麗な黒髪をしたスレンダーな女性だった。
「あ、これ異世界あるあるかも」
なんて、この状況を整理できていない脳は呑気にお花畑でいると––
「さ、共に戦いましょう」
金髪美少女は手を差し伸べてきた。
「え?」
何が何だかわからないまま、その手を握る。
そうすると、女性は凄く喜んだ顔となり、メイドとピョンピョンと飛び跳ねていた。
「えと……つまり、なんですか?」
状況把握ができない俺は––その2人に質問してみることにした。
すると、金髪女性は「え?」とあたかも俺が常識外れなような態度を見せ––
「これから戦争するのです」
そう簡潔に、本当に簡潔に説明してくれた。
「私が説明します」
メイド服をきた褐色の女性が、そんな言葉足らずの金髪女性の代わりに丁寧に説明してくれることになった。
「この国は現在、隣国との対戦を予定しております。実は、私達の国は長年隣国に苦しめられておりまして…見えますでしょうか?あそこで今後戦うのですけど」
そう言って、メイドは窓から見える競技場を指さした。
「昔は、人と人が斬りあう……なんてことが当たり前でした。しかし、それではなんのメリットもないということで……先祖から伝わる競技で争うことになったのです」
「競技?」
「はい、先祖の方はそれを【ヤキュウ】と呼んでいたらしくて。それを用いた競技で富や貿易等あらゆる物を決めるのです」
メイドは金髪美少女の頭を撫でる。
「実は、この子の両親はこの競技の長でした。しかし、それが原因で負け続けた責任を取るということで……自害されたのです」
「……」
「しかし、後に隣国は不正を行っていたことがバレたのですが…それはお咎めなく、今こうやって力関係が成り立っているのです」
メイドの顔は少し暗くなってしまった。
「だから、私がお父様達の仇を取るのです」
金髪美少女の顔はドヤ顔をしていた。きっと、まだ中学か高校くらいの年齢なのだろう。
そんなドヤ顔少女はメイドの説明に補足していく。
「競技に出る者は勇者、魔導士…エルフ、ゴブリン等色々な人が参加します。…まあ、実際レベル差とかあるかもしれないんだけど。そのレベルを超越できるものがあるの!」
少女は、契約書を俺に見せてきた。
「これ!応援の同意書!」
…なんだこれ?
「実は、この後大きな国の応援団が来てくれるの!これを書いてくれれば百人力!!」
……そんなドヤ顔をしている少女の家に、電話が鳴り響く。電話あるんだ。
それを、メイドは受話器を取って、応対するのだが……様子がおかしい。
「……応援団はこれない…らしいです」
メイドの絶望した顔が、この国の未来を暗示している様だった。
そこからは、2人して泣き叫ぶのを宥めるのに必死だった。
「大丈夫、大丈夫ですよ」
根拠のない言葉だが、それしか今の俺には見つからなかった。
それでも、俺の言葉を聞いた2人は……段々と落ち着きを取り戻してくれた。
そして––
「貴方、団長になりませんか?」
先ほどよりも、真っすぐな目で俺を見つめてきた。
「え!?」
「貴方しかいません!」
そう言うと、俺の手を握ってきた。……久しぶりの感触だ。
俺の答えは…当然、イエスだ。
実際、この世界に飛ばされて––身寄りもないのだから。
「自己紹介が遅れました。私はこの国を治める王女、カレンと申します。そして、こちらのメイドはルーナと言います」
「俺は…えと、木村隆司と申します」
「タカシ…でいいでしょうか?」
「呼びやすいようにしてください」
「わかりました」「かしこまりました」
2人の声が揃った。
そこから、俺は再度自分の状況を自分なりに整理しながら話した。
すると、王女のカレンは––
「では、こういった条件はいかがでしょう?衣食住は全て私が面倒を見ます。そして、タカシさんにはこの戦争で勝つために応援してほしいのです」
「応援?」
「はい!実は、応援がヤキュウの全てなのです。応援の力が強い程……その国は大きくなっているのです」
「でも、応援ってそこまで影響あるの?」
「そうですね。この世界を初めて見たからわからないかもしれませんよね……あ、丁度いい例がありました」
そう言って、王女カレンは窓の外に映る––男女2人を指さした。
「あの男性に『頑張れ~』って言ってみてはもらえませんか?」
「え?」
「いいから!早く!」
大きな声を出した王女に気圧され、俺は「がんばれ~」と少し控えめな声で言う。
すると、その声は俺からその男性へと飛んでいきながら––数字が表れ、男性の体内へと入っていく。
「ね?」
「…え?」
王女のドヤ顔を再度見るのだが、いやわかんないんだけど。
そんな俺が理解できないままでいると、俺の声が入った男性は女性に向かって––
「好きだー!!!」
告白した。
すると、女性は「ごめんなさい」と言って立ち去ってしまった。
「…ね?」
「は?」
さっきの会話が繰り返された。
多分、王女は成功例を見せたかったんだろうけど…ごめんよ、男よ。
「えと…簡単に言えば、タカシさんの応援であの男性のポイントは加算され、言葉を発した。そのポイントが高ければ高いほど成功するんだけど……絶対ではないんだけど」
バツの悪そうに王女は目を泳がせながら言う。
「…ってことは、俺があの人の人生狂わしたのか!?」
「いやいや!あれはしょうがないって!!」
第二の俺になるなよ…男よ。
まあ、簡潔に言ってしまえば……。
「数字化できる応援でヤキュウっていう競技のサポートをしてほしいってわけ?」
「そうです!」
「……俺でいいの?」
「しょうが……あ、いや、えと…。タカシさんじゃなきゃダメなんですよ!きっと!多分!!」
……大丈夫だろうか。
不安を抱きつつも、俺は決戦を控えている国に住むことになった。
疲れ果ててた俺は転生当日、王女の家で使っていない部屋で寝た。
翌日、目が覚めてメイド特性のご飯を食べながら状況を整理したのだが……。
「これ、仲間必要じゃん」
根本的な問題を解決する必要がある。
俺はこの国の観光兼スカウトに出掛けた。
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