異世界応援団~人生捧げたら、クソジジイに抱かれた~
いぬ丸
第1話 人生の詰みは居酒屋後
「ごめんなさい!!」
俺の人生の全てを懸けた告白は玉砕した。
■□■□■
俺の名前は木村隆司(きむらたかし)
今は大学生活を謳歌している者のだ。
そして、俺は同級生の子に恋をしていた。
その子は…子供の頃から常に一緒にいて––それはアニメや漫画の世界では“必然”のような、当たり前のような余裕はあった。
しかし、それでも俺には勇気が足りなくて……大学では自分を磨くためという名目で、演劇サークルで活動していた。
そのサークルでは色々な活動をしていたのだが……今目の前の衝撃が全てを消し去った。
「え…?俺振られたの?」
走って帰っていく––好きだった女の子の背中を見ながら、俺は目から涙がこぼれた。
その子が好きだった俳優のマネをしたり、好きな歌を練習したりしたのに…。
「俺、なにしてるんだろう」
人生の大半……いや、ほぼ全てを懸けた––俺の全てがここで去った。
そんな惨敗した俺は……一人暮らしの家に戻りたくはなくて、大学の最寄り駅の居酒屋で一人でちびちびと酒を飲んでは、ため息をつく…という人生敗北者みたいな風貌で閉店まで鎮座していた。
「おいおい!!打てよぉ~!!!」
そんな俺の空間をぶち壊す声が店内で響いた。
閉店間際ということもあり、客は自分だけなのかと思っていたんだけど……誰かいるのか?
その声は、個室の方から聞こえてくる。
「お前が打たなきゃ勝てないんだぞ!」
俺はここで察した。
多分、この人はテレビ中継されている優勝争い真っ只中のチームの事を応援しているんだろう。うるさい。
まあ、熱が入るっていうのは俺もわかるんだけど……今はそんなことは聞きたくはない。
だから、俺は逃げるかのように居酒屋から出た。
「あー、もうどうしよ」
未だに家に帰りたくない衝動と現実世界へと戻す終電の時刻を見ながら呟いては、ため息を何度もついてしまった。
ため息は幸せを逃がす……この後の俺は身に持って体験することになるとは…。
「あれ?何でいるの?」
「え?」
さっき俺が大玉砕した相手が、俺の目の前を通り……何故か声をかけてしまった。
神様の悪戯なのか、褒美なのか……。
「……あ、あの…今日の事は忘れて」
「……え、あー……うん」
ぎこちない会話が生まれて、直ぐに死んでいく。
しかも、相手はスマホの確認を時折して“早く帰りたい”という印象が俺の感情を壊していく。
「……もしかして、彼氏とか?」
俺よりも先に大学を出たはずの相手が今ここにいるのは––大学からちょっと先に行ったラブホから帰っていることを暗示させていた。
「……まあ、いいじゃん」
ばつの悪そうな相手はそう言うと、その場から逃げるように俺の前から去ろうとした。
その時だ……俺とその子の前に一台の車がフラフラと侵入してきたのだ。
「危ない!」
とっさの判断で、俺はその子の前に立ち、押し出す形で助けると……俺は真正面からその車と衝突した。
……あ、本当に声がでないもんなんだな……。
全身が熱い、熱いからなのか、目すら見えないや。
……あ、でも、冷えてきた……。
『あ、死ぬんだ』
そう実感したのが、俺がこの世界で最後の感覚だった。
■□■□■
「おい、起きなさい」
感覚がなくなっていって程なく、俺は誰かの声で目を覚ました。
その声は、耳からではなく直接脳に語り掛けるような感覚だった。
「……なんですか?」
「お前、死んだぞ」
「はい?」
「見てみろ」
ひょいッと起こされた俺の前には––血だらけの自分と涙を流している女性の姿があった。
……あ、本当に死んだんだ。
でも、こうやって泣いてくれてて少し嬉しいよ。
「……おい、話を聞きなされ」
感慨にふけっている俺に、脳内に語りかけるおじさんの声が会話を始める。
「君は確か……演劇とか色々としているんだってね?どうだった?」
「どうだった…って」
「悔しくはないか?この世界、コイツの股を割けなかった訳じゃろ?」
「……」
「幼なじみで、常に一緒にいる……こんな確変確定演出なのに外すとか……ぷっ。もし生きていたら逆転してたかもしれぬのになぁ~。」
「おい!」
「…コホン、それでじゃ。君にチャンスをやろうと思ってな?まあ、採用なんだけど」
「チャンス?」
「そうじゃ。君には新しい世界へ行ってもらう」
「……ほう?」
「そこで、上手くいけば凄く楽しい世界になるはずじゃ!行こう!」
「…え?ちょ!?」
俺の了承も得ず、俺の亡骸から俺を一気に引きはがすと––下半身を中心に発光し、俺はこの世界から姿を完全に消した。
そして……。
「え!?ここどこなんだよ!?」
目の前には、昔の日本のような小さな民家が立ち並ぶ––小さな国のような場所に飛ばされていた。
「……いや、なんだよ!?」
つっこみが追い付かない。
何故か俺は裸だし、小説で見たようなエルフやドラゴン、ゴーレム……何でも揃ってんじゃん。
しかも、あのジジイは消えてるし……。
「……ってかコレ、捕まるよな」
男性って何故か“そこでそうはならんやろ”って時になる現象がある。
……つまり、俺がその現象状態なのだ。
こじんまりとした村のような場所で、素っ裸な俺。
……なんとなくだけど、尻に生ぬるい感覚はあるが……今やるべきことは……。
「着る物で隠さなきゃ」
そう思い、近くの民家に忍び込んだ。
それが、後々大きな事になるなんて……アレの現象中の俺には全く予知していなかった。
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