おっさんがヒーローやって何が悪い

山ピー

第1話おっさんヒーロー誕生

中小企業のサラリーマン湯村 勇夫(ゆむら いさお)は平凡な人間だ。

毎日会社に行き夜まで働く。

家に帰って寝てまた朝会社に行っての繰り返しだ。

特に趣味もなく、休日は家でゴロ寝する位しかなかった。

そんな平凡な毎日だがそれでいいと思っていた。

「湯村!!また契約取れなかったのか!!たまにはやる気を出せよたまには!!」

今日も上司の井上課長に怒鳴られている。

「はぁ……申し訳ありません……」

「何だその気の抜けた返事は!!もういい仕事に戻れ!!」

「申し訳ありません……」

勇夫は席に戻り仕事を続ける。

「湯村さん大丈夫っすか?」

若い社員の田中が話し掛けて来た。

「ああ、大丈夫だよ……よくある事さ」

よくある事……そう言ってしまえばそれまでだが、勇夫はいつも営業成績は最下位。

後輩の若い社員達の方がよっぽど営業成績がいい。

勇夫は心の中ではやはり気にしていた。

上司に怒鳴られるのもいつもの事。

多少契約を取れた位じゃ井上課長も褒めてくれる訳じゃない。


仕事を終え満員電車に揺られながら家に帰る。

「ただいまー」

……。

帰って来ても誰も出迎えない。

それもいつもの事だ。

居間に入ると妻の洋子がソファーに横になりテレビを見て爆笑していた。

「ただいま……」

「あ〜お帰り〜」

「あの……ご飯は……?」

「テーブルに置いてあるから適当に温めて食べて」

「あっ、うん……」

しかし、汗を流したい為食事の前にシャワーを浴びようと風呂場に向かう。

途中で階段から降りてくる娘の香菜と会う。

「ゲッ!パパ……帰って来てたんだ!」

「そんな言い方ないだろ……」

「パパお風呂行くの?」

「ああ、シャワーを浴びようと思ってね」

「え〜マジぃ!?ウチ今から入ろうと思ってたのに〜」

「直ぐ出るから」

「ったく超最悪……あっ!湯船にはまだ浸からないでよね」

「……まぁ、パパもシャワーだけだから今は湯船には浸からないけど……」

娘にも嫌味を言われながらシャワーを浴びて出てくる勇夫。


妻は相変わらずテレビの芸人を見て爆笑している。

妻はご飯を作ってくれてるのはいいが、仕事で遅くなった時は先に食べてて構わないが一緒に食べれる時間帯に帰ってもご飯を一緒に食べる事は無かった。

一人で寂しく夕食を食べるのが勇夫の日常だった。

食事をしていると香菜が風呂から出て来た。

そのまま冷蔵庫を開けジュースを取り出す。

「香菜、最近学校はどうだ?」

「別に普通……」

「そっか……まぁ、特に変わりないならいいが……勉強はちゃんのしてるのか?」

この一言に香菜はムッとする。

「パパウザい……」

そう言って香菜はジュースを持って部屋に戻ってしまった。

「はぁ……」

まさか自分の娘がこんな風に育ってしまうとは思ってもみなかった。

小さい頃は可愛くて素直で勇夫が仕事から帰って来ると走って出迎えてくれた。

今はそんな面影は全くない。

勇夫は少し寂しい気持ちになっていた。


翌日もいつもと変わらぬ一日が始まった。

満員電車でギュウギュウ詰めにされ会社に着く頃は既に疲れていた。

いつもの様に仕事をしていると、突然井上課長から呼び出された。

「湯村!!ちょっと来い!!」

急に怒鳴られたので慌てて立ち上がると隣の席の北野の積んであったファイルを落としてしまった。

「ああ、ごめん」

「ちょっと〜何やってるんすか湯村さん」

「あはは……ごめんごめん……ちょっと慌てちゃって……」

「ったく余計な仕事増やさないで下さいよ〜」

北野はいつもこんな感じで先輩である湯村にも冷たく当たる。

「湯村!!何やってんだ!!早く来い!!」

井上課長が怒鳴り散らす。

「はっ、はいはいただいま……」

勇夫は井上課長の元へ。

「すみません課長……何か?」

「何かじゃない!!今、取引先の板野商事から商品の発注数が間違ってると電話があったぞ!!」

「ええ!?直ぐに確認します!!」

勇夫はまた慌てて席に戻る。

その際、まだ散らばったファイルや書類を拾っていた北野の手を踏んでしまった。

「イテッ!?」

「ああ、ごめん北野君……」

「チッ……もういい加減にして下さいよ……さっき俺に文句を言われた八つ当たりっすか?ファイル落としたのは湯村さんっすよね?」

「ごめん……そんなつもりじゃないんだ……今のは事故だよ」

「うーわ……出たよ言い訳……多分これ骨逝ってるわ〜……後で治療費請求しますからね」

「そ、そんな……」

「湯村!!早くしろ!!」

「は、はい!!」

その後、クレームのあった納品書とパソコンのデータを見比べると板野商事は商品を200個注文したのに対し桁を間違え2000個も納品していた事が発覚。

当然こんなに要らないと言われ商品を回収する事に。

「湯村!!お前のくだらないミスのせいで会社は大損害だ!!しばらくお前の給料を減らすからな!!」

「そんな……それだけは勘弁して下さい」

「ふざけるな!!本当ならクビにしてやる所だが減給で勘弁してやるんだ!ありがたく思え!!」

井上課長は怒り心頭。

何を言っても無駄だった。


その夜、勇夫は行きつけの居酒屋でやけ酒を飲んでいた。

「ったくよ〜……どいつもこいつもバカにしやがって……大体納品ミスは課長のミスでもあるじゃねぇか……納品書のチェックをしたのは課長なんだからよ……自分が見落としてんだろうがって……北野も北野だ……あれだけで骨に異常が出る訳ねぇだろクソガキが……」

「湯村さん今日は荒れてるねぇ」

大将が声を掛けて来る。

「ああ、今日はね……もう最悪だったからね……今日はとことん飲むよ……オヤジもう一杯……」

「はいよ。でも程々にしときなよ?」

「今日はとにかく飲むの!」

勇夫がすっかり泥酔した頃、隣りの席に一人の男が座った。

「いらっしゃい何にしましょう?」

「う〜ん……熱燗を」

「はいよ」

そしてその男は勇夫に話し掛けて来た。

「随分荒れてますね……何か嫌な事でも?」

「うん?ああ、仕事でちょっと……」

「そうですか……あなた、人生に疲れてませんか?」

「!そうですね……確かにそうかも知れません……」

「もし、人生を変えられるとしたらどうします?」

「え?まさかそんな上手い話……私ね勧誘とかには乗らないですよ」

「そうじゃありませんよ……例えば……子どもの頃にヒーローに憧れたりしませんでした?」

「え?ヒーローかぁ、確かに憧れましたねぇ」

「もしそんなヒーローに今なれるとしたら?」

「慣れれば人生変わるんですかね?」

「きっと変わりますよ。試しにこれを使って見て下さい」

そう言って男は細長い箱を渡して来た。

「え?あっ、ダメダメ買えないですよ」

「買うのではない……差し上げますよ。大将、お勘定」

「え?お客さん一杯しか……」

「大丈夫ですよ。お勘定を」

「あっ、はい」

男は会計を済ませそそくさと帰って行った。

「オヤジ、こっちも帰るよ。会計してくれ」

「はいよ」


勇夫は酷く酔っ払い家に帰って行った。

家に帰ると香菜が居た。

「ただいまー」

「うわっ……パパお酒臭い……しばらく近寄らないでよね」

香菜は部屋に入って行った。

そして居間では洋子がテレビを見ていた。

「やっと帰って来た。こんな時間まで飲んで、まったくお気楽で良いわねぇ」

「いや……別にそういう訳じゃ……」

「私寝るから何か食べるなら適当に食べてよね」

「ああ、お休み……」

しかし、勇夫は特に何も食べずに部屋に入った。

「あ〜あ……疲れたな……」

着替えようとした時、鞄に入った先程の箱を思い出す。

「あっ!そういえばコレ……何なんだ?」

気になった勇夫は箱を開けてみる。

中にあったのは腕時計と使い方を書いた説明書。

「ヒーローになれる……そんなバカな……」

だが、勇夫の脳裏にはあの不思議な男の言葉が過ぎっていた。

「人生を……変える……」

半信半疑で勇夫はその腕時計を左腕に付けてみた。

そして説明書を読み赤いボタンを押す。

すると突然勇夫の体を光の粒子が包み込み彼を変身させた。

真っ赤なスーツにヘルメット……。

それは正に子どもの頃憧れたヒーローのようだった。

ヘルメットを装着していると不思議と遠くの声が聞こえて来た。

「なんだこれは!?」

戸惑いながらもその声に耳を澄ませてみる。

それは誰かが助けを呼ぶ声だった。

助けて……微かにそう聞こえた。

「誰かが助けを……この私を必要としている……」

勇夫は声に導かれる様に現場に向かった。

何故か普段よりも走るスピードが早い。

いや、尋常じゃないスピードで走っている。

「何だ何だ?どうなってるんだ!?」

あっと言う間に現場に到着してしまった。

勇夫が到着するとそこには上司の井上課長がガラの悪い男達に絡まれていた。

「おいおいおっさん……テメェ人にぶつかっといてごめんで済むと思ってんのかよ!?ああ?」

「いや、だから……謝ってるじゃありませんか……」

「ああ?なら誠意見せろや」

「せ、誠意?」

「金だよ金」

「課長……くっ……や、辞めなさい!!」

勇夫は井上を助ける為に勇気を振り絞って止めに入った。

「あ?何だテメェ?」

「プッ……コイツコスプレしてやがる」

もう一人の男には笑われる。

なんでこんな行動を取ってしまったのか自分でもわからない……。

ガラの悪い男が殴りかかって来た。

だが、勇夫には何故か男の拳がスローモーションに見えた。

男のパンチをかわした勇夫は男にカウンターパンチを決める。

男は殴り飛ばされ気絶した。

「何で〜!?俺、さっきからどうなってるんだ!?」

簡単に殴り飛ばされた仲間を見て腰を抜かすもう一人の男……。

「ヒィィィぃ……わ、悪かった……か、勘弁してくれ!!」

男は逃げ出した。

周りからは拍手喝采。

そしてあの井上課長が頭を下げ感謝して来た。

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

「い、いや〜……」

こうしておっさんヒーローが誕生した。

だが、このヒーローにはまだまだ謎が多い……。

そしてあの男は何者なのか……。


続く。












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