sideルーカス

 

 俺様はリディエンダ王国の二大公爵家の1つである、グルーデスト公爵家の分家に生まれた。

 そして、俺様の人生は、5歳の魔力検査から開始したといっても過言ではない。


 5歳まではどうしたかって?

 ハッ! グルーデスト公爵家の分家内でばかりつるんで、爵位の上下、資産の上下、本家に気に入られているかの上下……って、どんだけマウント好きなんだっつーの!

 俺様はたいてい下にされていたしな、あー思い出したくもねえ。


 そんなクソな時代はどーでもいいんだ!

 魔力検査で魔力量・光属性魔法の素養の強さ、どっちも分家の中で一番だと判定された日にゃあ、分家の他の奴らの面、見ものだったぜ!

 あーはっはっはっは!!

 こんな痛快な下克上ったらないぜ。

 偉そうにしてきた奴らが、いい大人も全員、ペコペコへりくだってきてよーう。

 あー、愉快、愉快!


 両親も兄貴たちにかまけてばかりで無関心だったくせに、クルッと手のひら返ししてよ、「あなたはいい子だってわかっていたわ! さすがわたしたちの子!」って、別にお前の手柄じゃねーから。

 お・れ・が! すごいんだっての。


 しかも、タイミングよく本家の嫡男が消えてくれてやんの。

 俺様への贈り物か?

 ツイてるとか、そんなレベルじゃねえ。

 起こっていること全てが、俺様に「次のグルーデスト公爵は君だ!」とお告げしているんだよ、これは。

 はー、俺ってばもはや神。


 ま、表だっては喜べないけどな。

 葬式なんか、俺様も両親ももー大変だったぜ。

 シュショーな表情作るんだが、互いの作り物の表情が目に入っては笑えて笑えて、必死も必死。

 あんな笑える葬式、なかなかねーな!


 こーなりゃ、俺様の天下よ。

 建前なのか何なのかわからねーが、グルーデスト公爵家後継者候補だなんて言って何人も集めてやがるが、俺様が後継者に決定してるんだよ!

 対等だと勘違いしてんじゃねーぞ!


 特にアルフォードとかいうすかした野郎がよお、座学、剣術、馬術、経営実習、交渉術……ありとあらゆることで馬鹿にしてきやがって!

 どうせ媚びうるかなんかして、ずるしてんだろーが!

 けっ、たいした魔力が無いくせに、イキがってんじゃねー!


 こんなことしても無駄無駄、ここは光属性魔法の大家、グルーデスト公爵家だぜ?

 最後は魔力量と素養の強さがものを言うに決まってんだ。

 あの公爵のジジイとババアもよ、もったいぶってねーで、さっさと決めろよな。

 選ぶ側に立って、優越感いたってたいんだろーが、俺様が公爵になった暁には、痛い目みせてやるからな!


 ま、グダグダと後継者が決まらないで年月が過ぎたが、結局俺様が後継者に指名された。

 ほーらな! 最初っからこうなるってわかってんだから、さっさと決めりゃあいいのによお。

 これだから老害はなんでも遅くて、ぶん殴りてー。


 後継者指名の次は、婚約者もきまったとさ。

 相手は、ミュゼラン公爵令嬢のローズ。

 ミュゼラン公爵家! わかってるじゃねえか、俺様にふさわしい女は、最高峰しかありえねーってな!

 だが、ローズか。

 属性魔法の素養なしの出来損ないだとか聞いたな。

 なんでリリーじゃねーんだよ、クソ!


 ミュゼラン公爵家継とか、どうでもいいのによ。

 俺様みたいに、優秀な男を分家から選べばいいじゃねーか。

 俺様のものになる方が、んなことより優先すべきだっての!

 はー、どいつもこいつも、わかってねーなー。


 今日は見合いか……って、ふっざけんな!

 なんだあのクソブス!!

 あれでリリーと血が繋がってるとか、詐欺だろ、詐欺!

 骸骨が似合わねードレス着やがって、キモいわボケが!


 最悪だ。

 次期グルーデスト公爵のこの俺様の嫁が、クソブスだと!?

 許されるわけがねーだろうが! 


 しかも、半年間領地に行けって、まじふざけてんじゃねーぞ、クソジジイにクソババア!

 分家の屑どもがわんさかいる領地なんざ、奴らに土下座させるくらいしか楽しみなんかねーんだよ。

 くそ、やってられっか!!


 ああー、いい。

 やっぱ女は、胸と尻だよな。

 両手で掴んでも余りある大きさ、顔を埋めた時の柔らかさ……ああ、俺様のリリー。

 恋患いの末夜這いしてくれるなんざ、なんてエロかわいい天使なんだ!

 俺様が世界一格好いいって、ちゃんと言葉で言える素直さを持っているしな。


 他の奴らはわかりきった俺様の素晴らしさを、意地でも口にしようとしねーからな。

 はああ、僻み根性ってのは、厄介だなー。


 リリーが俺様と結婚してグルーデスト公爵夫人になりたいってんだ、あのクソブスが邪魔だ!


 けーけっけっけ、婚約破棄を言ってやった時のあのクソブスの顔、笑えたなー!

 俺様と結婚したいばかりに多少見れる顔になったみたいだが、俺様のリリーに敵うわけねーっての!!


 グルーデスト公爵の俺様の隣には、美しいリリー。

 俺様の人生、絶好調だぜー! ファー!


 は? 領地に行け? 外出るな?

 誰に命令してると思ってんだ!

 次期グルーデスト公爵様だぞ!


 ああん? 後継者指名解除? グルーデスト一族から追放!?

 なに馬鹿なこと言ってやがんだ、おい!

 すかしたアルフォードの野郎が代わりに後継者になるぅ!?

 あんな雀の涙しか魔力の無い野郎に、俺様が負けるわけねーだろうが!

 両親も泣いてる場合じゃねーよ、抗議しろよ!

 散々俺様のおかげでおいしい思いしておいて、肝心な時に役立たねえ奴らだな、クソ!


 いってえ、痛いっつの!

 殴んな! 蹴るな!

 俺様を誰だと思ってんだ、分家の雑魚野郎ども!

 うわっ、やめろ、やめろって!


 やめてください、お願いします、やめてください……。

 僕はごみ屑人間です。生きているだけで害悪です。

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。


 そうだ、僕にはリリーがいる。

 ミュゼラン公爵家に行こう。


 ……は?

 どこだ、ここは?

 暗い、汚い、臭い!

 出せ! 出してくれー!


 え? 一生出られない?

 僕が光属性魔法の素養のみしか取り柄がないってふざけんっ……!

 ごめんなさい、生意気言いました、申し訳ございません。


 出してください、お願いします。

 光属性魔法の素養を持つ子を量産するための種馬扱いは、やめてください。


 もうやだー!

 出してくれー!

 こんなところにいるくらいなら、いっそ殺してくれー!


 いやだ、どうしてだ、なんでこんな目にあうんだ。

 僕が何をしたっていうんだ?

 僕は悪くない、何もしてない、こんな目にあう道理はない!


 もう、もう、生きていたくない……。

 どうか、殺してください……。

 

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