本編 最終話
ローズは縁談が持ち上がってからアルフォードと手を取り合った日までを思い返し、勝手にステージに上がってきたリリー、前に進み出た。
「リリー、ここは貴女が来てよい場所ではありません。お帰りなさい」
グルーデスト公爵にお願いするのではなく自らリリーに対峙したのは、今が幸せな未来を掴むための勝負どころだと直感したためだ。
頼らない、甘えないというわけではない。
グルーデスト公爵夫妻とアルフォードとは、家族として互いに支え合いたいと考えている。
しかし今だけは、ルーカスはともかく両親とリリーに対しては、ローズがきちんと立ち向かわなくては、前に進む一歩に大きな差が出ると思ったのだ。
「なによ! ちょっと見た目がマシになったからって、偉そうに! あんたこそグルーデスト公爵家にも、アルフォード様にもふさわしくないわよ! できそこない!」
リリーは灰色がかっているとはいえ黒髪黒目で、母親によく似て美しい見た目をしている。
しかし、大声を上げれば上げるほど、取り繕ったものが剥がれて醜さが露になっていくかのような錯覚が見える。
「貴女の伴侶のことは、私は言及しないわ。でも、これだけは言わせて。貴女は次期ミュゼラン公爵夫人として、祖父母に、両親に、使用人に、領民の皆様に大事にされてきたの。それを放り出すことは、許さないわ」
ローズが喉から手が出るほど欲しても、決して手に入らなかったもの。
その全てを手にしておいて、恩恵を受けておきながら、返す番になって逃げるだなんて、許されることではない。
少なくとも、ローズは絶対に許さない。
「……っ! そんなの、知らない! あんたができそこないだから、いけないんじゃない。あんたができそこないじゃなければ、リリーは自由に結婚できたんだから!」
それまでとは違う一面をリリーがのぞかせたように見えて、ローズは一瞬躊躇う。
しかし、今はっきりさせることがリリーのためでもあると、心を奮い立たせた。
「甘えないで、今を見て。もう貴女は既に、愛情を受け取った後なの。これから貴女は、どうすべきかしら」
「そんな、そんなの……。わかんない! わかんないもん!」
「私は私のすべきことがわかるわ。私は必ず、将来は立派なグルーデスト公爵夫人になって、グルーデスト公爵家をもり立てていくわ。そうして、現グルーデスト公爵夫妻に恩返しをして、アルフォードと共に必ず幸せになるのよ」
傍らで見守っていてくれたアルフォードが差しのべてくれた手を、強く握る。
「貴女は私からたくさんの物を奪ってきた。でも、もうおしまいよ。私の幸せな未来は、絶対に奪わせない!」
宣言後、アルフォードとともに、グルーデスト公爵夫妻の方へ振り返った。
リリーが背後で泣き崩れた気配がしたが、ローズは振り向かなかった。
背後には、過去しかない。
ローズの幸せな未来は、今見ている方向にあるのだから。
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