第14話


 発表会の数日前。

 ローズはグルーデスト公爵夫妻に、1人の男性を紹介された。


「はじめまして。アルフォードと申します。ローズ嬢にお会いできる日を、心待にいておりました」

「ご丁寧にありがとうございます。ローズ・ミュゼランです」


 アルフォードは蜂蜜色の髪と瞳の色をした甘やかなルックスと、背が高く鍛えられたスタイルの男性であった。


「グルーデスト公爵家の遠縁の分家でね。騎士団に所属しているんだ。実はルーカスと、グルーデスト公爵家の後継者を最後まで競った人物なんだよ」

「まあ、そうなんですか」

「わたくしは断然アルフォードを推していたのよ。優秀だし、人格に優れているし、ローズとの相性が良さそうって、ピンときたもの。だけど、光属性魔法の素養だけがね……」


 公爵夫人はアルフォードの良さを語っている時の高いテンションが一転、悩ましげにため息をつく。


「ローズが光属性魔法の素養持ちという前提で人選はしていたが、魔力量や強さばかりはしらされていなかったからね。名門というのも、因果なものだよ。絶対的な掟の前に、妥協せざるをえなかった」

「ルーカスったら、あんなのなくせに、光属性魔法の素養の強さだけは、候補者の中で群を抜いて優れていたのよね。本当、それだけしかないっていうのに、我が家では重視されてしまったの」


 遠い目で黄昏る公爵夫妻の姿に、名門一族を背負う重責は計り知れないと、ローズは2人を思いやる。


「だけど、もうこれで解決よ。ほら」


 差し出されたのは、その日特別に受け直した魔力検査の結果だ。

 「光属性魔法の素養持ち」とのローズの5歳の時の結果を受けてケインは決闘を申し込まれ、決闘の前に遺書に認め、それを公爵夫妻は読んだ。

 しかし、魔力検査そのものは目にしていない。


 これから学ぶためにも正確に知った方がいいと、異例の再検査となったのだ。

 もう15歳なので、ローズ本人の意思のみで受けられるそうで、特にミュゼラン公爵家への配慮はしなかった。


 その結果が、今ここにある。


「光属性魔法の素養持ちなことは、やっぱり間違いなしよ。それに、すごいわ! グルーデスト公爵家の歴代でも一二を争う魔力量に、素養の強さなの」

「私たちはこの結果を見た瞬間に、即決したよ。ルーカスは後継者の指名を解除。新たにアルフォードを後継者とすることをね」


 きっと、たぶん、おそらく。

 今まで前置きについていた言葉が取れ、間違いなく光属性魔法の素養持ちだという事実を、ローズは噛みしめた。


 そして告げられた驚きの決定に、検査結果から目を離し、公爵、公爵夫人、アルフォードの順に目を合わせる。


「ルーカス自身の希望なんだ。婚約破棄したいなら、させてやろう。無論、彼の有責だ。だが、ローズが未来のグルーデスト公爵夫人であること、これは絶対に変わらないよ」

「ローズがこれだけの力を示してくれたから、アルフォードの唯一の弱点を補って余りあるわ」


 公爵がアルフォードの背を柔らかく押し、公爵夫人が優しくローズの背を押してくれる。


 自然と近づいたアルフォードを、ローズは見上げる。


「ローズ嬢、私は剣をふるってばかりで生きてきた武骨な人間です。しかし、これからどんな困難も、手を取り合って共に乗り越えたいと思います。私の手を、取って頂けますでしょうか」


 アルフォードの手は傷や剣だこの多い騎士の手で、真っ直ぐな瞳は信頼に足るとローズには感じられた。


「私も至らない点が多く、まだまだ精進が必要です。これからの未来を乗り越えていくのなら、貴方がいいと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 取り合った手の中に、アルフォードと守っていくグルーデスト公爵家の未来があると、ローズは思えたのであった。

 

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