第13話

 

「そして、ルーカスの後継者指名を解除し、新たにグルーデスト公爵家の分家筋より、アルフォードを後継者に指名いたします」


 さらにざわめくかと思われたが、公爵の言葉を合図にステージに上がったアルフォードの凛々しさに女性客がうっとりし、アルフォードが優雅にお辞儀をした時には、誰もがじっとステージを見守っていた。


 貴族は情報が命だ。

 しかしこの特大の情報の連発に、状況把握だけで手一杯の者たちが多かった。


「アルフォードは非常に優秀な若者です。ルーカスとどちらを指名するか、実は最後の最後まで悩んでいた人物でした。しかし、私は過ちを犯した。光属性魔法の素養の強さ。ただこの1点のみで、ルーカスを指名してしまったのです」


 グルーデスト公爵は言葉を切り、会場を見渡す。


「グルーデスト公爵家は光属性魔法を重んじてきました。もちろんこれからも、大切なことに変わりはありません。しかし、重要な契約を身勝手に破るような人物には、いくら光属性魔法の素養が強くともグルーデスト公爵家を継ぐ資格は無い。このことは、今後爵位を継承していく際に、代々の当主に受け継いでいく戒めといたします」


 そうして、グルーデスト公爵は静かに頭を下げた。

 リディエンダ王国内でグルーデスト公爵が頭を下げる存在は、王族か、同等のミュゼラン公爵くらいである。

 そのグルーデスト公爵が招待客に向かって頭を下げたことで、事の重大さがじわじわと招待客たちの間に浸透していった。


「私は冒頭、こう申し上げました。本日の発表は、ローズ嬢のことについてであると。ここまでの発表で、ただ婚約破棄となったことだけが彼女に関わることなのか。いいえ、そんなことはございません」


 グルーデスト公爵と事前に打ち合わせしていたローズとアルフォードが近づき、招待客によく見えるよう、しっかりと手を繋ぐ。


「本日最後の発表は、ローズ嬢とアルフォードの婚約が正式に成立したこととなります」


 本日一番の大声を張り上げる公爵、嬉し涙を流して祝福する公爵夫人、そして見つめ合うローズとアルフォード。


 招待客のざわめきがピークに達する中、幸福に包まれた光景をぶち破ったのは、甲高い耳障りな声だった。

 

「ずる~い! リリー、ルーカスよりもアルフォード様の方がいい~!」


 現れたのは、招待されていないミュゼラン公爵夫妻とリリー、そして、領地に蟄居することを命じられているルーカスなのであった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る