第9話
ルーカスの婚約破棄宣言後、ミュゼラン公爵がリリーから、グルーデスト公爵がルーカスから話を聞くこととして、解散となった。
ローズはルーカスが婚約破棄を宣言したことでミュゼラン公爵家に残されるのかと不安になったが、「ルーカスに重要事項の決定権は無い」とグルーデスト公爵が力強く仰り、「ローズさんは何があろうと、もうわたくしたちの娘よ」と抱きしめてくれて、涙がこみ上げた。
そしてそのままグルーデスト公爵夫人に支えられながらグルーデスト公爵家の馬車に2人で乗り込み、グルーデスト公爵邸へと戻った。
グルーデスト公爵とルーカスは、「ルーカスをローズさんには近づけられん! 何をしでかすかわかったものではない、この馬鹿が!」との公爵のご意向で、ミュゼラン公爵家の馬車を借りて戻ったようだった。
話し合いの場でルーカスに何を言われるのかと戦々恐々としたローズだったが、「たとえ一晩ですらローズさんをルーカスと1つ屋根の下で寝たなんて状況にはさせん!」と息巻く公爵が戻ったその足で、ルーカスの首根っこをひっ掴んで領地へと出発した。
グルーデスト公爵の怒れる様はますます若々しく、呆然と座っているだけだった祖父母との違いがなんだかおかしく、婚約成立から一転して暗澹としていたローズの気持ちが、少し上向きになったのだった。
「ローズさんは何も心配しなくていいのよ」とグルーデスト公爵夫人が仰り、引き続き公爵夫人教育と、追加で花嫁修行をして過ごしていた。
教育が、婚約成立までのなんとか半年で合格点にまで仕上げようとするような駆け足の内容ではなく、この先10年、20年とグルーデスト公爵夫人としてローズが困らないでやっていけるようになるための内容に変化している。
ローズはそのことに気がつき、言葉だけではなく本気でグルーデスト公爵夫妻はローズの味方だと信じられた。
そうして、教育を受けている期間中の、わずかな隙間時間を使って調べた末に至った1つの結論が真実味を帯びたことを感じた。
どうしてミュゼラン公爵家は今回の縁談を申し込んだのか。
なぜグルーデスト公爵夫妻は最初からローズを歓迎してくれたのか。
大切な後継者であるはずのルーカスよりもローズの味方なのは、いったいどうしてなのか。
はっきりさせるために、ルーカスを残してグルーデスト公爵が王都に戻った翌日、ローズは公爵夫妻に話し合いの場を設けることを願い出たのだった。
緊張感のある話し合いを覚悟していたローズだったが、現在の空気はいたって平穏なものであった。
「ローズさん、この空いている一画を見てちょうだい」
「はい」
先日の庭園でのお茶会とは違う場所に設けられた場だが、その近くにけっこな広さの何もない場所があった。
「ここはね、旦那様が用意しってくださったの。ほら、久しぶりに土いじりしようかって話していたでしょう?」
「まあ、実現してくださるのですね。素敵ですわ」
うふふと照れた仕草をする公爵夫人は、愛されている女性特有の美しさに満ち溢れている。
ルーカスとうまくいかなかったローズからすると、微笑ましい反面、少し羨ましい。
「わたくしたちだけではなくて、ローズさんと3人で作り上げたいの」
「お義母様……」
「話し合いの前にはっきり言いたいのは、ローズさんがミュゼラン公爵家に嫁ぐことに変わりはない、そのことだけだよ」
「お義父様……」
グルーデスト公爵夫妻の優しくも力強い眼差しに、ローズは勇気を得た。
同時に今の言葉で確証を得たローズは、今日言おうとしていた言葉を、口にする。
「お義父様、お義母様。……いえ、貴方方は、私の血の繋がった本物のお祖父様とお祖母様なのですね」
疑問調では、聞かなかった。
ローズはもう、確信していた。
「そうだ。ローズさ……ローズ、貴女は私の1人息子ケインの、娘だ」
「ローズ、ああ、わたくしのかわいい孫よ。ケインによく似たその顔を、わたくしにもっと近くで見せてちょうだい」
公爵夫人は涙ながらに、側に近寄ったローズの頬を撫で、じっくりとローズの顔を眺めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます