第7話
ルーカスの態度には傷ついたものの、グルーデスト公爵夫妻のあたたかさに励まされたローズは、お見合い以降、1人で定期的にグルーデスト公爵邸へ通っていた。
成立すればリディエンダ王国二大公爵家が縁戚関係になる重要な婚約のため、簡単には決められないとのグルーデスト公爵のお見合い後の回答だったためだ。
ルーカスはともかくグルーデスト公爵夫妻の義娘になりたいというローズ自身の意思と、何としてもグルーデスト公爵家に嫁がせたいミュゼラン公爵の意向が合致し、1人ではあったもののローズは根気よく通っていた。
ルーカスは出迎えの挨拶のみで、後は毎回公爵夫人が話し相手をしてくれたが、いつでも笑顔で優しくローズに接してくれて、ローズは公爵夫人のことを好きになっていった。
そして、どうにかグルーデスト公爵家に嫁ぎたいと、1つのお願いをすることにした。
「まあ、グルーデスト公爵家で、公爵夫人の教育をしたいの?」
「はい。不躾なお願いであることは、重々承知しております。本来でしたら、ミュゼラン公爵家で終えているはずの教育です。恥ずかしながら、私は不足している事柄が多々あるのです。しかし、これから勉強してルーカス様をお支えしたい、その気持ちは誰にも負けません」
意気込みに嘘は無いが、ルーカスのためではなくグルーデスト公爵と公爵夫人のためなのだが……それは言わぬ方が良いだろう。
ローズは少ない語彙力を駆使して、なんとか頷いてもらおうと必死であった。
「もちろん、教育後に必ず婚約をというわけではなく、判定をして頂いて、失格の場合は諦めます。今の私をグルーデスト公爵家に迎えられないことは、よくわかります。しかし、どうか1年、いえ、半年でも構いません。私に機会をくださいませんでしょうか」
グルーデスト公爵家に嫁ぐためと言えば、両親も食事を与えざるを得ないだろうから、質より量で標準的な同年代の女性並みに太り、身だしなみを整える。
そして、グルーデスト公爵家での教育は1つも取り零さず完璧に身につける。
自身に魅力がないことは、ローズが嫌というほど痛感していた。
けれど、グルーデスト公爵家に将来的に闇属性魔法の素養が持つ子孫をもたらすかもしれないーーその価値を保有していることも自覚している。
現段階ではメリットよりデメリットが上回っているかもしれない状況だが、不足している事柄を改善して、なんとかメリットを上回らせることができれば……。
「わかったわ」
「……! ありがとうございます!」
「しかし、条件があるの。教育期間中、通いではなくこの屋敷に住むこと。いいかしら?」
「私としては願ってもないことですが、よろしいのでしょうか」
「通いだと、縁談が周囲に漏れる危険性があるのよね。成立しなかった場合、お互いに気まずいもの。大丈夫、ルーカスは半年くらい、領地で領地経営を学ばせておくわ。若い男女が1つ屋根の下でなければ、後々への影響はないわよ」
「そこまでお考え頂き、ありがとうございます。ぜひともよろしくお願いいたします」
こうしてローズはグルーデスト公爵家に住み込みで公爵夫人の教育を受けることになり、見事合格して、ルーカスとの婚約が成立することになったのだ。
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