第6話

 

 ローズはお見合い当日、精一杯磨きあげられ、今までで一番豪華なドレスとアクセサリーを身につけた。

 ドレスとアクセサリーは結局リリーの物になるため惜しんでいないのだろうが、縁談が持ち上がってからの数日は栄養を摂取できる食事であったことから、ミュゼラン公爵家の本気が窺える。


 そんなことをしてもローズは痩せ細ったままで、ドレスはリリーの採寸で仕立てていることからブカブカな上に丈が長い状態で、お洒落に精通していないローズですら滑稽でしかたがない有り様だ。

 グルーデスト公爵家の遠縁の分家出身で発言権がたいしてないであろうルーカスはともかく、かつてローズの祖母と社交界の花を争った貴婦人であるグルーデスト公爵夫人は、不快に思うのではないだろうか。


 そう、グルーデスト公爵夫妻は、ローズの祖父母と同年代である。

 彼らには昔、一人息子がいた。

 しかし、10年前に亡くしてしまっている。


 今回後継者に指名されたルーカスは、いたのであれば彼らの孫にあたる世代。

 未だ元気に現役でいるグルーデスト公爵が、次期公爵とその夫人に教育を施す時間の猶予はまだあると判断したのだろう。

 3年前に引退し、片手間に領地経営の口出しをしている祖父とは大きな違いだ。


 お見合い場所であるグルーデスト公爵家は、庭園も屋敷もミュゼラン公爵家と違った趣で、さすが公爵家といった貫禄がある。


「ようこそいらっしゃいました」

「ローズさん、はじめまして。会えて嬉しいわ」


 満面の笑顔で迎えてくれたグルーデスト公爵夫妻に、5歳より前の祖父母のイメージが重なったローズは、緊張感が少しほどけたことを感じた。


 しかし、しばらく和やかに談笑した後、あとは若い2人で……とルーカスと庭園に散歩に行ったローズは、再び緊張感を取り戻した。


「あーあ、なんでお前と結婚しないといけないんだろうな。リリー嬢の姉だっていうから、美人だろうと思ったのに」

「……ルーカス様、妹をお見知りおき頂いているのですか?」

「当然さ。リディエンダ王国立魔法学院のマドンナなんだから。公爵令嬢、美人、稀少な闇属性魔法の素養持ち。お前、属性魔法の素養無しなんだって? おまけに、ブスで社交界の貴婦人の間の評判は最悪。まだ男性で直接お前を見たことがある者はいないから、女性特有のよくある悪意かと思ってたのに、本当だったなんて。姉妹でものすごい違いだな」


 闇属性魔法の素養を持っているリリーは、社交界プレデビュー後すぐにリディエンダ王国立魔法学院に入学している。


「なんだって次期グルーデスト公爵の俺様が、お前なんかと婚約しなくちゃならないんだ」

「申し訳ございません」

「はああー。後継者候補と争ってようやく指名されたってのに、ツイてないぜ。公爵様が決めたってんなら、何も言えないけどさー」


 そこからは終始、公爵家後継者としての愚痴と、ローズへの文句をルーカスが一方的に話し続け、お見合いは終わった。

 

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