第4話

 

 両親とリリーに歓迎される幻想は、再会の瞬間に粉々にされた。

 冷たい表情、挨拶すら無視される態度、ローズとは違い公爵令嬢らしくきらびやかなドレスを着たリリー。

 もう昔とは違うことを、突きつけられた瞬間であった。


 そして、屋敷の隅の元使用人の部屋を与えられ、令嬢教育を受けることはなく、使用人として働く日々が始まった。

 5歳までの使用人たちと比べて領地の使用人たちは意地悪だと思っていたが、ただ遠慮して必要最低限の接触に控えていたのだと理解した。

 優しいと思っていた使用人たちからの悪意がある嫌がらせの数々は、ローズの精神を疲弊させた。


 笑顔で毎日「かわいいですわ」とほめてくれていた使用人が、「リリー様と比べてなんて貧相なの」と罵る。

 おいしい料理を作ってくれていた料理人が、残飯に虫を混入した食事と呼べないものしか出さない。

 掃除や洗濯を快く完璧に仕上げてくれていた使用人たちが、大半の仕事をローズに押し付け、失敗は全てローズに擦り付け、眠る時間を削ってくる。


 領地でかろうじて12歳より多少幼く見える程度には成長していたローズの身体はみるみる痩せ細り、幼少期の愛らしさは見る影も無くなった。


 そんな状態でも、そもそも王都に戻された原因である社交界にはプレデビューしなくてはならない。

 社交界デビューは15歳だが、その準備として12歳で同性ばかりのお茶会にプレデビューするのだ。


 本来、魔力検査後からゆるやかに子ども同士の交流が始まり、ある程度友人ができた状態で社交界プレデビューとなる。

 しかし、ローズは全く誰とも交流をしておらず、友人がいるわけがない。

 友人がおらず、公爵令嬢には見えない痩せ細った容姿で、公爵家のメンツとして着せられた豪華なドレスとアクセサリーが浮きまくっている。

 さらには、十分なマナー教育を受けておらず、参加者の情報を事前に何も教えてもらえず、母親の付き添いすらない状態であった。

 

 当たり前の結果として、ローズの社交界プレデビューは大失敗した。


 非はミュゼラン公爵夫妻にあることは明らかであるが、そんなことは当時のローズにはわからなかったし、ローズに関係する誰もがローズの責任だと責め立てた。

 しかし、そのことよりもローズを傷つけたのは、リリーの言動であった。


「ずるいわ! リリーだってそんな綺麗なドレスとアクセサリーを持っていないのに! あいつになんか、全然似合ってない! ねえお父様、お母様、リリーあれが欲しい!」


 社交界プレデビューのために唯一用意されたドレスとアクセサリーは、リリーに取り上げられてしまった。


 頑張っていればいつかは受け入れてくれる、いつか昔の両親とリリーに戻ってくれる。

 淡い思いは、この日、粉々に打ち砕かれたのであった。

 

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