第3話

 

 ローズの困難は、魔力検査が行われた5歳の時から始まった。

  

 ローズはミュゼラン公爵家の本家の娘として生まれ、5歳までは何不自由なく育てられた。

 当時の公爵夫妻にも、公爵夫妻の娘の母親にも婿養子の父親にもかわいがられ、使用人も皆が優しかった。

 1年後に妹のリリーが生まれても変わらず、姉妹仲良く、幸せな幼少時代であった。


 それが壊れたのは、5歳の魔力検査の時のこと。

 代々闇属性魔法の素養を受け継いできたミュゼラン公爵家だから、魔力の多さの違いや素養の強さの違いはあるものの、ローズに素養自体があることを誰も疑っていなかった。


 母親は本家の娘で当然闇属性魔法の素養があるし、婿養子にはいった父親もミュゼラン公爵家の分家から迎えたため闇属性魔法の素養を持っていることも関係していた。

 それに、魔力の強さは髪や目に表れる。

 ミュゼラン公爵家では、漆黒に近ければ近いほど、強い魔力と素養であるとされており、ローズはどちらもこの上がないほどの漆黒なのだ。

 期待しない方が、無理というものである。


 しかし結果は、闇属性どころか、何の素養も無しというものであった。

 なお悪いことに、怒り狂った公爵が大金を積んで無理やり1年早く魔力検査を受けさせたリリーは、闇属性の素養を持っていたのだ。


 ローズのミュゼラン公爵家での扱いは、この日を境に一変した。

 王都からミュゼラン公爵領に移され、さらには本邸ではなく離れに数名の使用人とともに住まわされた。


 食事は使用人と同等、衣服は男爵令嬢並み、教育係は事情を外に漏らさない分家の者、離れから外に出ることは許されず、軟禁状態で12歳までを過ごした。

 幼いが故にローズはわけがわからず、祖父母や両親、リリーに会いたいとよく泣いたものだが、まだ12歳までの方が良かったかもしれない。


 7年の間に公爵当主は父へと代替わりし、領地へ隠居してきた祖父母は、たとえ離れであってもローズが近くにいることを拒否した。

 また、外聞を気にして社交界プレデビューはさすがにさせないわけにはいかなかったのだろう。


 ローズは王都に戻されることになった。

 ローズは喜んだ。

 祖父母とは行き違いになったけれど、両親とリリーに会える。

 教育係は皆がローズを嫌っていると言っていたが、そんなことはない、と。

 ローズの中の家族の印象は5歳の頃のままで、意地悪なのは教育係と領地の使用人なのだと思っていた。

 

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