第2話

 

 そんな中、社交界が大荒れの台風の目であるローズは、グルーデスト公爵夫妻と優雅にお茶会を催していた。

  

 白を基調とした荘厳な屋敷に、格式高い調度品や装飾品でまとめられ、重厚な家具が程よい緊張感を醸す。

 ローズはグルーデスト公爵家の庭園で、公爵夫妻とお茶を楽しんでいた。


「まあ、あの立派な木はお義母様が自らお植えになったのですか?」

「そうなの。嫁いで間もない頃よ。わたくし、グルーデスト家の田舎の分家から嫁いできたから、自然に触れていたい性質で。あの一画を自由にする許可を旦那様に頂いたの」

「はっはっは、あの頃はお互い若かったね。どうだい、久しぶりに2人で、土いじりでもしてみようか」

「あら、素敵。ローズさんは優秀で教えることがほとんど無いから、自由な時間ができて嬉しいわ」

「こちらこそ、わかりやすく教えていただいて感謝しております」


 今日は、グルーデスト公爵家での未来の公爵夫人となるための教育を受ける日。

 公爵夫人はお世辞を言ったものの、ローズは実家で冷遇されているため、実態は公爵令嬢としては足りない部分が多い。


 ローズ自身がそのことを自覚して、グルーデスト公爵家での教育を受けることを、自ら申し出た。

 そして、こちらは偽りではなくローズ本人の能力は低くなかったので、教育を受ける合間に公爵夫人とお茶が飲めるほどには、順調に教育計画を進めていっている。


 グルーデスト公爵の後継者であるルーカスと婚約の話が持ち上がってから約半年、今では日常の光景だ。

 そこに今日は、時間が空いた公爵も参加しているというわけである。

 公爵夫人はたいそうローズを気に入り、つい先日婚約者に本決まりしたところだ。


「いやあ、王宮では、質問責めにされて大変だったよ」

「あら、珍しくお茶会に参加なさると思ったら、王宮から逃げてきただけでしたのね」

「はっはっは、まいったなあ」

「お手数をおかけしまして、申し訳ございません」


 謝るのもおかしいかとも思ったが、質問はローズとルーカスの婚約についてなのだろうと考えると、言わずにいられなかった。


「気にすることはないよ。ミュゼラン公爵家からご令嬢をもらうんだからね。王宮のみんなが気にするのは当然さ」

「そうですよ。面倒なことは全部、旦那様にお任せなさい。ローズさんは安心して、ずっと我が家で過ごしたらいいんですからね」

「そうだよ。実家に戻ることは、もう無いんだから。ローズさんは、私たちの娘だ」

「ありがとうございます。……本当に、ありがとうございます」

 

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