幸せな未来は誰にも奪わせない

和泉あき

第1話

 

 その日、リディエンダ王国に激震が起こった。


 属性魔法使いの多さで繁栄するリディエンダ王国の、象徴である二大公爵家。

 光属性魔法使いを代々輩出するグルーデスト公爵家と、闇属性魔法使いを代々輩出するミュゼラン公爵家。

 500年前の建国時から続く名門の両家が、婚姻による縁戚関係を結ぶと発表したのだ。


 そもそもリディエンダ王国は3兄弟で建国し、長男が国王に、次男と三男が各々公爵家を興して王族を支えてきた。

 定期的に両家には王族が降嫁し、王族の血筋が途絶えないようにされてきた。

 つまり、第2第3の王族といっても過言ではない。


 リディエンダ王国内において絶大な権力を誇る両家だが、300年ほど前から関係が悪化し、報復に報復を重ね続けてきた結果、現在は犬猿の仲として知られている。

 王族は両家の仲の悪さに苦慮し、貴族の領地整備の末、グルーデスト公爵家は最も西の領地、ミュゼラン公爵家は最も東の領地を拝領している。

 各々の隣国に強い魔法使いの家が睨みを効かせるメリットがあるため現在の形に決着したが、他の貴族への配慮等、歴代の国王の頭を悩ませる難問が、両家の仲の悪さであった。


 そうであったにも関わらず、縁戚関係となる。

 しかも分家がではなく、本家も本家、グルーデスト公爵家当主の後継者に先日指名されたルーカスに、ミュゼラン公爵家当主の長女であるローズが嫁ぐというのである。


 ローズ・ミュゼランに闇属性魔法の素養が無いことは、周知の事実だ。

 しかし隔世して属性魔法が引き継がれた例が過去にあるため、属性魔法を渡したくない家とは縁戚を結ばないことは、リディエンダ王国の常識である。

 となると、王族も貴族も情報通な商人も誰も知らぬ間に、属性魔法を渡しても問題ないほど、両家の仲が良くなっていたことになる。


 情報が命の社交界の住人たちにとって、それはおおいなる驚異であった。

 両家が仲良くなることでどう勢力図が変化するのか、グルーデスト公爵家が光属性と闇属性の両方を手にした場合王族以上の権力を握るのではないか、損をするようにしか見えないミュゼラン公爵家の意図は何なのか。

 

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