無色透明な砂糖のために

エリー.ファー

無色透明な砂糖のために

 私はお菓子の城に住みたいと思っている。どうにか叶えたいものだから、なるべく高いお給料がもらえる仕事につきたい。しかし、私は余り頭が良くないし、お金を稼ぐくらいなら死んだ方がましだと考えてしまう。

 典型的な駄目な子。

 でも。

 お菓子の城に住みたい。

 そのために、できることは一つ。

 誰でもいいから、協力をして欲しいとお願いをする。

 これしかない。

 私の住んでいる地域は樋具市の山間の方なので、蝉やら蛙やら猪やら熊やらが至るところに現れる。対策を打ったりしているが基本的に何の効果もなく、雑音と死を感じながら毎日を過ごしている。

 私には友達がいる。

 たぶん、私のことが好きだ。

 だから、お願いをする相手としてはもってこいということになる。

「さとちゃん。あのね、お願いがあるんだけど聞いてくれるかな」

「内容による」

「お菓子の城に住みたいの」

「馬鹿なんじゃないの」

「馬鹿じゃないよ。本当に住みたいんだよ」

「本当に住みたいって思ってるところを馬鹿だって言ってるの」

「じゃあ、馬鹿でいいよ。でも、お菓子の家に住みたいんだよ」

「なんで、お菓子の家に住みたいの」

「お菓子の家って最高じゃん」

「最高って何。基準は何」

「基準とか、そんなものを持ち込んじゃいけないんだよ」

「基準がないと、お菓子って書かれた鉄の家ができあがる可能性があるよ」

「じゃあさぁ。扉はクッキー」

「ビスケットじゃなくていいんだ」

「え、じゃあビスケット」

「じゃあって、何」

「いや、そこまで考えてないからどっちでもいいっていうか」

「どっちでもいいって言うのは、何になっても文句はないってことだけど、それでいいんだね」

「よくない。ような気がする」

「決めて」

「チョコチップクッキーにする」

「劣化した時に、チョコが落ちてくる可能性があるから、玄関周りが汚れるかもしれないけど、いいの」

「えぇと、大丈夫。食べるから」

「なるほどね。凄くいいアイディアだと思う」

「あ、ありがとう」

「壁はどうする」

「クラッカーがいい」

「天井は綿あめがいいって思ってたけど、雨が降ったらきついよね」

「そうだね」

「お菓子じゃない普通の屋根にする」

「凄く現実的なお菓子の城になってきたね」

「だ、だめかな」

「まぁ、メルヘン成分はかなり薄れたよね」

「そっかぁ。なんか難しいなぁ」

「普通に城を作るのだって難しいんだから、お菓子の城ならなおさら難しいでしょ」

「たとえば、ジュースの出てくる蛇口とか欲しいなぁって思ってたの」

「ジュースはお菓子に入るんだ」

「えぇと、そうだね。確かに矛盾してるかも」

「まぁ、柔軟に対応すればいいと思うけど。そのジュースが届くまでの管ってどうするの」

「あぁ、そうか。どうしよう」

「そこは普通の水道管でいいんじゃないの」

「ちょっとお菓子の城から遠ざかってる気がする」

「外側だけでいいんじゃない」

「そっかぁ。うぅん、そこまで妥協しないと難しいよね」

「正直、難しいと思う。できる限りお菓子の城ってことにしちゃえばいいんじゃないの」

「お菓子の城って、作る前からこんなに大変なんだね。なんか疲れちゃった」

「真面目に考えなきゃ、どんなものだって簡単だよ」

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