繰り返される日々


[...ANDROID-YEN-02R PLAY MEMORY:REPEAT = HUMAN RIN...3th]



「――星炎神しょうえんじんが与えし恵みに感謝を」 


 食事前の祈りを済ませると、リン型アンドロイドはナイフとフォークでソーセージを小さく切り分け始めた。私はいつものように、彼女の食事の様子を向かいの席で見守る。

 ……今回でリンの生前の記憶を再生するのも三周目となった。

 とは言っても、彼女の記憶全てを再生しているわけではない。

 再生範囲は十七歳から、リンが死ぬまでの二十一歳までを指定している。

 それはリン型アンドロイドの外装年齢が健康だった最後の年、二十歳にしていることから、なるべく外見と記憶の差異が出ないようにと考えてのことだった。


「今日のお天気は?」


 三本のソーセージの内、二本を切り分け終わったところで、リン型アンドロイドは言った。


「曇りです。汚染濃度は最低濃度ですが、西から汚染風が流れ込んでいますので、昼までには中濃度まで上がると予想されています」


 リン型アンドロイドが小さくため息をつく。


「これで二週間か。外に出なければ天気なんて分からないのに、曇りと聞くだけで気分がもやっとするから不思議よね」

「環境に精神が影響を受けるのは、人間特有の感覚ですね」

「そうね」

「不便です」


 そう述べると、リン型アンドロイドは「そんなことないよ」と言って笑った。その表情が、当時のリンとなんら変わりのない表情筋の動きが、不意に私の胸を圧迫させる。

 このリン型アンドロイドは、リンの記憶メモリから言動だけではなく、それに伴う表情も完璧に再現していた。

 ……だからなのだろう。つい錯覚してしまいそうになるのは。

 目の前にいるのはアンドロイドなどではなく、リンそのものではないかと思ってしまうのは。

 もちろん、そんなことはありえないと理解している。しているからこそ時折、胸が苦しくなるのだ……。


「――――どんなお天気だとしても外に出られたら嬉しさのほうが勝るもの。そういう時はね、曇りでも雨でも嵐でも、世界が明るく見えるものなのよ」

「つまり、人は気持ちで見る世界が変わると」

「そういうこと」

「理解しかねます」

「いつか、ケイにも分かるときが来るわ」


 リンの記憶はその時の状況に適合するものを、メモリからリン型アンドロイドの人工脳が弾き出している。

 今の会話は《汚染風が続いて二週間、汚染濃度が低濃度、なおかつ二週間目の予報が曇りで西から汚染風》の時に再生される記憶だろう。

 この条件に適合する天候はそれなりに起こるので、今のところ周回ごとに欠かさず再生されている。

 逆に状況に合わない記憶は再生を除外される。

 一周ごとの再生期間は一年に指定しているので、条件が合わずまだ再生されていない記憶もある。


 それでも最後だけは必ず、彼女が死んだあの日を指定していた。

 辛い思いをすることは分かっていた。

 それでも私は、聞きたかった。


『大好きよ……ケイ』


 リンの最後の言葉を、何度でも、何度でも――……。


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