三
子どもの瞳が覗き込んでいる。
「どうしたの?」
「見るな」
「なんで?なんで、泣いているの?」
「…」
見て欲しくなかった。そう言った人が居たことを思いだした。
恥ずかしいとか、情けないとか、惨めだとか、そんなことではない。
あまりに隔たっているけれど、あまりに近いものに触れてしまえば、それは境界を無くし変態していくことがわかるから、離しておきたかったのだ。
「あっちにねぇ〜…」
遠く声が呼ぶ。俺というものを名指して言葉が飛ぶ。
そんな休日はあまりに俺には勿体ないから、悲しいのだ。
いつからだろう。泣くように成ったのは。
一番冷めた流れに居る俺が言う。
いつからだろう。
いつからだろう。いつからだろうと、記憶を問うようになったのは。それから後退し続けている。時間が停滞している。進みながら留まり、そして後ろ引きずられていく。掘り起こさなくても、それが世界だったころ。反証しなくても明らかだった時。装飾しなくても美しかった風景。それがいまではどうだろうか。
それを問う以前に感じるものを、本心だとか、愛とか、真理と彼女は言っていた。そもそも彼女は何者だったか。
彼女は嘘ツキだった。だからそんなことを言えたのだ。
彼女は大人だった。
馬鹿な大人だった。
大好きな人だった。
いまの俺はそれにほとんど追いついて、それからそれを馬鹿にして成りきらないのだ。
帰路をとぼとぼ歩いた。歩きながら考えた。今日はどうやってマスターベーションをするかを。それが俺に課せられた重要な使命に違いないから、必死に考えた。
必死に考えた末に、家に帰り、そんな考えなんてなにも無かったようにマスターベーション。マスターベーション、裏スジに熱を持ってそして眠った。
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