子どもの瞳が覗き込んでいる。

「どうしたの?」

「見るな」

「なんで?なんで、泣いているの?」

「…」

 見て欲しくなかった。そう言った人が居たことを思いだした。

 恥ずかしいとか、情けないとか、惨めだとか、そんなことではない。

 あまりに隔たっているけれど、あまりに近いものに触れてしまえば、それは境界を無くし変態していくことがわかるから、離しておきたかったのだ。

「あっちにねぇ〜…」

 遠く声が呼ぶ。俺というものを名指して言葉が飛ぶ。

 そんな休日はあまりに俺には勿体ないから、悲しいのだ。


 いつからだろう。泣くように成ったのは。

 一番冷めた流れに居る俺が言う。

 いつからだろう。

 いつからだろう。いつからだろうと、記憶を問うようになったのは。それから後退し続けている。時間が停滞している。進みながら留まり、そして後ろ引きずられていく。掘り起こさなくても、それが世界だったころ。反証しなくても明らかだった時。装飾しなくても美しかった風景。それがいまではどうだろうか。

 それを問う以前に感じるものを、本心だとか、愛とか、真理と彼女は言っていた。そもそも彼女は何者だったか。

 彼女は嘘ツキだった。だからそんなことを言えたのだ。

 彼女は大人だった。

 馬鹿な大人だった。

 大好きな人だった。

 いまの俺はそれにほとんど追いついて、それからそれを馬鹿にして成りきらないのだ。

 帰路をとぼとぼ歩いた。歩きながら考えた。今日はどうやってマスターベーションをするかを。それが俺に課せられた重要な使命に違いないから、必死に考えた。

 必死に考えた末に、家に帰り、そんな考えなんてなにも無かったようにマスターベーション。マスターベーション、裏スジに熱を持ってそして眠った。

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