第8話 この友情がずっと終わらないことを願って
ちらりと窓の外に目を向けたら、真っ暗だった。
「もう夜だな。やばい、親に怒られるかも。そろそろ出るか」
真が立ち上がりかけた。
「待って」
「ん?」
真が動きを止める。ちゃんと言わなければ。
「ごめんね、真。さっき僕、酷いこと言ったよね?」
「え? 何が?」
「恋愛とか、興味なさそうだとか」
「ああ、気にすんなよ。それにお前、さっき普通に謝ってたじゃん」
「そうだけど、あれは形だけだったっていうか……」
「もういいって。あたしはそんなん言われ慣れてるから。今更平気だって」
「……嘘でしょ?」
真の目が逸れていた。僕でも分かるくらいに。真は、他の女の子程には嘘がうまくないのかもしれない。気まずげな顔を見せた。
「言われ慣れてるってのは本当だよ。女っぽくないとか、可愛い服似合わなそうとか。こういう性格を直したいとも思わないし、それはいいんだ。ただ――――――」
言葉にするのを躊躇っているようだった。真には珍しいことだった。
「ただ、お前はあたしと違って可愛いから。それなのに、お前のことを好きな男がいても振ってばっかで、気になる奴がいるっぽいのに全然近づこうともしなくて、それがなんかもどかしくて…………ちょっと、苛々した」
やっぱり真は女の子だと思う。
そして僕は男だ。そんな所までは思いも寄らないし、正直、そんなこと言われてもどうしようもない。彼氏なんて作るくらいなら、いっそ真と付き合う方がいい。
「僻んでるみたいでカッコ悪いだろ? だから言いたくなかったんだ」
真は始末の悪い様子で言う。
「そんなことない。真の本音が聞けて嬉しい。僕、自分のことしか見えてなくて、真に彼氏ができたらなんて考えたことすらないのに気づいて、もしかしたら今までずっと知らないで傷つけてたのかもしれないって、そう思ったら、どうしようもなく……自分が嫌になって、それで」
言葉に詰まる。さっき泣いたばかりなのに。目頭が熱い。真に気付かれたくなくて、咄嗟に俯いてしまう。
「ちょっと待てよ? お前が泣いてたの、そういう訳なの?」
「え?」
声色が変わって思わず顔を上げたら、真は真っ赤に頬を染めていた。
「え、何それ。あたし、お前にあんなこと言って、泣いてたのと関係ないとか、滅茶苦茶恥ずかしい奴じゃん!」
「あ……ううん。真が僕の側から居なくなったら凄く不安なのは本当」
「なんだよ。余計に恥ずくなるだけだからそういう気遣いするなって」
真はそっぽを向いて言うのだけれど、ちょっと嬉しそうに見えた。そんな姿がおかしくて、今度こそ涙が引っ込んでくれた。
「あのね真、僕、本当に遠藤君のこと――――――」
「もういいよ」
「真?」
真はどこか晴れ晴れとしていた。
「お前の態度、ちょっと気にしてたのは本当だよ。でも、今はもう気にならない。これも本当。だってお前は、可愛いだけじゃなくて良い奴だからな」
「真……」
「あたしさ、お前が泣きだしてほんとに焦ったんだぞ? だって、あんな言葉で泣くヤツいるか、普通」
言われて初めて気づいた。涙の流れてしまう理由はあった。真にも伝えた。でも、全て教えた訳じゃない。あんな風に泣きだしたのを引かれても仕方ない。
「ごめん」
「謝らなくていいって。嬉しかった。あたしが大切だから、お前が泣いてるんだって知って。そういう涙だったらいくら流しても言い。じゃんじゃん泣いていいぞ」
「僕だって、泣きたくて泣いてるんじゃないんだけど」
「あとさ」
真は続ける。僕は文句を流されてほんの少しむっとする。
「無理に彼氏なんか作らなくていいよ。いや、むしろ作るな」
「え?」
僕は怪訝な気持ちで問い返した。一瞬前のささやかな憤りはどこかに行ってしまった。真ははにかむように笑った。
「あたしも、お前に彼氏ができたら寂しいからな」
「……うん」
でも、彼女は欲しい。なんて言葉に出して言えないのが後ろめたい僕だった。
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