第2話 山崎君のラブレター

 一時間目の終わった休み時間。トイレに行った。

「あー、吉野の奴ふざけた問題出しやがって。敏達びだつ天皇の孫とかそんなん覚えてる訳ないだろ。ていうか敏達びだつって誰だよ?」

「なんか、大変だったみたいだね」

 真は苛々として髪をわしゃわしゃやっている。

「ああ。くじ運が最悪だった。お前んとこはどうだった?」

「うん。遠藤君と一緒だったんだけど………………」

「ん? どうかした?」

 言いかけてしまって気付いた。あの一件がクラスに広まったりしたら、遠藤君は立ち直れないかもしれない。

「ごめん。やっぱり遠藤君が可愛そうだから言えない」

「なんだよ。気になるじゃん。教えろよ」

「駄目だって。どうしてもっていうんなら直接聞いてよ。教えてくれないと思うけど」

「よし分かった。あいつ気が弱いから、ちょっとすごんだら吐くんじゃないかな」

「え⁉」

「冗談だよ」

 僕はほっと安心する。教室に戻ろうと足を向けたら、真が思い出したように聞いてきた。

柳川やながわさ、髪伸ばさないの? 長い方が似合うって」

「僕はショートでいいよ」

「何で? 前は伸ばしてたじゃん。中学入っていきなり短くして驚いた」

「今は、こっちの方が好きなんだから、いいでしょ?」

 僕は鏡の向こうに映る自分の姿を見て、複雑な気分になる。


 昼休みになった。僕はお弁当を広げた。

「うわあ、柳川やながわ、いつも思うけど女子力高いな。美味しそう。それ、本当に自分で作ってんの?」

「うん」

 毎朝早く起きて手間をかけて作っているから、それなりに自信はある。

「ええーいいなあ」

「いいよ。好きなの一つあげる」

 真が羨ましそうに覗き込んでくるから、僕は分けてあげることにした。料理は好きだし、自分が作ったのを誰かに食べて喜んでもらえるのは嬉しい。

 真は卵焼きを一つ摘まんだ。美味しそうに頬張っていた。

 

 放課後に帰ろうとしたら、下駄箱の中に手紙が入っていた。

 中身を見ると、『屋上で待っています』と書いてあった。

「それ、ラブレターじゃん。行ってきなよ」

 真が明るい声で促した。

「え、う、うん」

 僕は当惑した気持ちでぎこちなく答えた。

「でも、ラブレターって決まった訳じゃないよ」

 頬が赤くなるのを感じながら弁解する。

「遠慮すんなって、ほら」

 真に背中を押されて、僕は仕方なく階段を上った。

 屋上に足を踏み入れたら、夕陽が赤く輝いていた。

 隣のクラスの山崎君が待っていた。山崎君は身長が高くて、それなりに女子に人気のある男子だった。

 今の様子を写真にでも撮ったら、青春ドラマなんかに出てきそうな絵面かもしれない。

 山崎君は言った。

柳川やながわ。お前のことが好きだ。付き合ってくれ」

 僕の頬は紅潮していた。多分山崎君も。夕陽のせいでどうせ見分けはつかないけれど。もう何度目だろう。いつだってこの瞬間はとても緊張する。僕はスカートの裾をぎゅっと握りしめた。

 それから、これまでやってきたように勇気を振り絞って、言った。

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