第3話

それはいつも通りの日、登校中のときだった。



「秋星く~ん‼」



後ろから秋星を呼ぶ声がして、二人同時に振り向くとそこにはこちらに向かって走ってきている美少女さん。


だれ……?


秋星のことを呼んでいるから秋星の知り合いかな?


横を見てみれば少し照れくさそうに笑いをこらえきれていない秋星の顔。


ほんの少し、頬がピンクに染まっている。



「椿! どうした?」



ついには笑顔でお返事。


っえ、どういう関係……?


私はただただ立ち尽くす。


真っ先に頭に浮かんできたのは、『秋星の彼女』という考え。


いや、そんなはずは、ない……こともない……?


考えている間に美少女さんはここにたどり着いて、息を整えながら話しかけてくる。



「えっと、都辻さん……?」


「あ、はい、都辻、です……」



私の名前、何で知って……?


少し落ち着いて今気づけば、美少女さんが来ている服はうちの学園の制服だ。


学年別にわけられているネクタイの色で、同級生だということもわかる。


ただ、この学園は一学年G組まであるからちょっと見覚えがない方だ。



「初めまして、都辻さん。私、一年E組の青星せいぼし椿つばきというものです。よろしくお願いします」



にこっと微笑む青星さんはまるで天使のよう。


私はそのかわいさに少し場違いさを感じながらもお辞儀を返す。



「あの、二人はどのようなご関係で……?」



私が一番気になっていたかつ聞きたくないことを質問すると、青星さんは少し驚いたあと、軽く秋星をにらむ。



「まさか秋星くん、言ってないの……?」


「あ、そうだった、ごめんね!」


「いいけど……じゃあ今言ってください! どうぞ!」


「えっと……」



やだ。


よくわからないし、まだ聞いてもいない。なのに、なんだかいやな予感がする。


自分で聞いたのに、なのに……聞きたくない。その先を言わないで、秋星。



「俺の彼女です!」


「ふふっ」



幸せそうに発言した秋星と、その直後に照れくさそうに笑う青星さん。


嫌でも、信じたくなくても。


これは事実なんだ、現実なんだと実感する。


もやもやとして胸が痛む気持ちがバレないように、嫌なやつだと思われないように、必死に作り笑顔を保つ。



「そうなんだっ! 秋星、さっさと言ってくれればよかったのに~!」


「だからそれは忘れてたんだって~」


「ははっ。えーっと、青星さん? 一年A組の都辻莉愛です! コイツの幼馴染やらせてもらってます! よろしく!」


「はい! よろしくお願いします! 図々しいのは承知なのですが、莉愛ちゃんって呼んでも……よろしいでしょうか?」



こちらにまで緊張が伝わってきそうなほどガチガチだし、なぜか同級生なのに敬語だし、少し遠慮気味に言う青星さん。


顔に『不安です』って書いてあるし、若干上目遣い。


まってこの子本当にかわいい……でもやっぱり嫉妬心は消えないなぁ……笑



「うん、ぜひぜひ! 私も椿ちゃんって呼ぶから!」



そう返すとぱあっと輝くような笑顔になる椿ちゃん。


……いや、情緒不安定かな?



「ぁ~~! 莉愛ちゃんありがとうございますっ!」


「いーえっ! それに同い年なんだし、タメでいいよ」


「本当で……本当⁉ ありがとう! 莉愛ちゃんかわいいしすっごくいい人だから話してみたいって思ってたの! 本当に幸せ!」



かわいいいいいいいいい‼


めっちゃかわいい子が! 私より断然かわいすぎる子が‼


最初間違いかけて直してるのとかすごい笑顔になるところとか私なんかにこんなこと思ってくれる椿ちゃんがものすごくかわいいですはい。



「ちょっと……俺空気?」


「うん空気」


「じゃあお先に」


「待って今の冗談だから行くな」



そりゃあ私の幼馴染兼好きな人なんだから忘れるわけないじゃないですか。


彼氏がこんなに他の女と絡んでいても、椿ちゃんは笑ってくれる。


性格に裏表がない、圧倒的ヒロイン属性のタイプだ。



「あ! そうだ! 秋星くんさぁ、今日から一緒に学校行こうって言ってたじゃん」


「ついいつもの癖で莉愛と来ちゃった。椿ごめんな?」


「全然大丈夫! もうどうせなら三人で行こうよ。莉愛ちゃん、いい?」


「おっけー! 行こっか」


「おー!」



三人で並んで通学路を歩く。


もう、二人ではこの道を歩けないのかな……


なんて、思いながら。














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