蔵書点検『リンバロストの乙女』(三)

 "There never was a moment in my life," she said, "when I felt so in the Presence, as I do now. I feel as if the Almighty were so real, and so near, that I could reach out and touch Him, as I could this wonderful work of His, if I dared. ("A Girl of Limberlost" Chapter 15)


「わたしは今ほど神の前にいると感じたことはこれまで一度もなかったね。全能の神があまりにほんとうのものと思われ、あまりに身近にかんじられるので、手をのばせば神がおつくりになったこの素晴らしいものに触れられるのと同様、神に触れることができるような気がします。(「リンバロストの乙女」村岡花子訳)


  ◆


「戦後に採りなおした原簿は、アニー先生の蔵書をあらためて登録したの。だいたい500から800番台が『アニー・ウェルス文庫』に当てられた。

 当時確認されていた蔵書をアニー先生がつけた整理番号に記録して、備考欄にはその番号と〈A・W〉の補記があるはず」


 フジシロさんの説明では、こう。

 今、学生さんたちが探している原簿にこの本の記録があれば、少なくとも戦後に持ち出されたものだとわかる。


「蔵からこの本が出てきたという方は、卒業生のご親戚なのかしら」

「そうなんだけど、それだけじゃなくてね」


 疎開先で、生徒を受け入れてくれた家だという。


「本を避難させたお家ですか」


 ついさっき話していた話が出てくるとは。フジシロさんも驚いている。


「田中さん」


 原簿を調べていた学生さんが。


「不明本かも、です」


 アニー先生から引き継いだ本については、原簿の備考欄に先生が付与していた番号が記されているのだけれど、No.121は見当たらないということだ。

 さらに念のためこの原簿の000763を見てみると、全く違うタイトルがあった。


「そうか。じゃあ、蔵書印の下の000763は、空襲で焼けちゃった台帳の番号か。戦前もアニー先生の蔵書、一部は活用されていたんだな。時々蔵書番号、ふたつ並んでいる本があるから、そういうことか」


 原簿を見ていると備考欄に、〈旧原簿登録番号〉と記されているものが確認できる。これはアニー・ウェルス文庫の蔵書に限らないようだ。


「原簿がここまでざっくり確認できたとなると、次は本が長いこと戻らなかった経緯ですねえ」

「ええと」


 さっきからフジシロさん、昔のことを思い出そうとしている。


「疎開先で、そのまま蔵の奥に残ってしまったのはどうしてかしら。

 学校史と、同窓会誌に何か疎開中の記述があったと思うんだけど」

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