蔵書点検『リンバロストの乙女』(一)
いつもの黄色い軽自動車。正門前で停車させる。
運転席から降りて、守衛さんの説明を受けながら、構内へ入った時間と名前と車のナンバーを名簿に記入した。
「創立百年超えてますっけ」
広い構内に、いくつも棟が並ぶ。
明治時代の、宣教師による英語塾から始まって、女学校、短期大学、大学と、大きくなっていった学舎。
図書館は、その合間にひっそりとある。
戦時中、空襲で一度半焼したそうだ。
「黒ずんでいるのは、その時残った部分なの」
「本はどうしていたんですか」
「一部は疎開する生徒や教師が持てるだけ持って分散させたみたい。でも間に合わなくて燃えてしまったものももちろんあって」
フジシロさんが勤めていた大学は夏休み。その間、大学図書館は五日間を蔵書点検にあてている。一点一点、バーコードリーダーで本の点検をする。
「棚卸しみたいなものかな。行方不明の本とか見つけたり、修理が必要な本も見つかる」
その五日目ともなれば、作業もだいたい終わっているので、フジシロさんは毎年おやつを持って労いに行くのだった。
今日の私はその運転手というわけ。
* *
「ご無沙汰です、フジシロさん。宮部さん」
事務室では、職員のみなさんと、アルバイトらしい学生さんかな。休憩中だった。
と、思ったら、何となく違う。
「ちょうどいいところに来てくれた、フジシロさん! あ、アイスだ、ありがとう!」
何人かはデスクワークをしている。
何人かは、二台並ぶ広い作業台に集まっている。
アイスのたくさん入った袋を渡すと、フジシロさんは作業台に引っ張られていく。
私もついていく。
「これが、今回の収穫です」
作業台に並んでいたもの。
古ぼけたプリント。
古ぼけたクリーム色のカード。
古ぼけた本。
どれもひとつではない。
「なんでしょう?」
田中さんに訊いてみる。
「点検してる時に、棚の隙間や本の隙間から出てきたものとか、夏休み期間中恒例のいろいろです」
「それでフジシロさん来ないかなあ、って思ってたんですよ」
真仲さんがそう言って、古ぼけた本のひと山から一冊取り上げた。
『A Girl of Limberlost』
「〈リンバロストの乙女〉とか、〈リンバロストの少女〉とか訳される本なんですけどね」
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