1センチ。1.5センチ。
フジシロさんの道具箱の中には、不思議なものがある。
プラスティックの下敷きを切ったような、一センチ幅の切れ端。長さは五センチくらい。
同じくらいの長さで、一・五センチのものも。それぞれに〈1〉、〈1.5〉と、マジックペンで書いてある。
〈1〉は、公共図書館の時に使っていて、〈1.5〉は大学図書館の時に使っていたそうだ。
何に使うかというと。
本の背にラベルを貼る時に、位置の目安に当てる定規だ。地から一センチ上。または一・五センチ上。
「なんだか緊張する」
タイプライターで請求記号を打ったあとのラベル。
ちょうどラベルの中央に揃えて打てるように練習もして、ようやく慣れたけれど。
貼るときに、また緊張する。
曲がるとなんか嫌だ。仕事だし。
私も自分の〈1〉と〈1.5〉の定規を作り当てながら作業をする。簡単にボール紙で作ってみたけど、便利だな。
「本の厚さで、記号が読みづらくならないように」
私が納品している小学校の図書室では、薄い本だと背に貼っても見づらいので、表紙の下、背の脇に貼る。やはり定規を当てて地から一センチ上に。
フジシロさんのいた公共図書館では、そのまま背に貼っていたそうだ。
「タイプライター、請求記号が右に寄ったり、左に寄ったりしても、背の中央に記号が来るように貼れば、そんなに気にならないんだけどね。でも、これは納品するものだからね」
そう。こだわり出すときりがないのね。
それから、ラベルを貼った上からフィルムを貼るところもあるけど、小学校はあとで
この頃は、小学校の図書室だけ装備を請け負っていたけれど、そのうち時々他の図書室や図書館の仕事が入るようになった。小さな違いがそれぞれにあるので、気が抜けない。
「大学図書館の時? 専門書だと背の下のほうに、〈〇〇大学出版会〉とか入っていることがあるからかなあ。私もよくわからないの。前任から引き継いだだけだから」
新しくできた専門学校さんの納品が決まったとき、ラベル位置の指定が一・五センチだった。フィルムは貼らず、カバーは廃棄。
それで私も、〈1.5〉の定規を作るためにボール紙を切った。
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