「アメリア・イアハート」

 その日は宮部書店の黄色い軽自動車で、小学校図書室に納品に行った。それぞれバーコードラベル、背ラベル、フィルムが装備済み。コンテナ五個。台車で往復。


「こんにちは」


 図書委員の生徒たちとオカシマ先生がカウンターで貸出をしていた。バーコードリーダーが、ピッ、ピッ、と鳴っている。


「宮部さん、お世話さまです」


 納品書と内容を読み合わせて検品する。

 まんがの偉人伝全集。動物の図鑑シリーズ。昆虫の図鑑シリーズ。宇宙の図鑑シリーズ。スポーツがうまくなるまんがのシリーズ。お料理ができるシリーズ。


「新しい本!」


 カウンターにいる子が、見逃さなかった。


「はんこ押せる!」


 図書委員の生徒は、さらにこの本の天に図書室の印を押す仕事があるみたい。それからオカシマ先生たちが登録作業をして、図書室に並ぶ。並べるのも図書委員の生徒たちだ。


「ありがとうございました」


 カウンターから、図書委員の生徒たちに見送られて、店に戻る。午後二時半ごろ。


   * *


「新しい図鑑うれしいけど、除籍どうしよう、ってオカシマ先生、また悩んでらして」


 戻ると、大抵レジのフジシロさんに訊きたいことができている。

 除籍というのは本を処分すること。

 特に歴史の本や図鑑は新発見のあと内容が書き替えられる。また、偉人伝も人物の評価が時代によって変わるので、学校の現場では注意をしているのだそう。

 オカシマ先生は、もう授業の内容とも合わない古い内容の本だということはわかっているけれど、どうしても踏み切れない気持ちになることがあるという。

 なんかわかる。本屋としては、新しい全集のお買い上げはありがたいけど。

 

「本が好きだと、苦しいのよね」


 苦しい話なのに、フジシロさんは楽しそうだ。昔の仕事の思い出があるのかな。


「でも、小学校にいるのは、今いちばん若い人だからね。いちばん新しい内容じゃないと。

 それに学校図書室は限られたスペースだから、それをどけないと、新しい本を置く場所がなくなるのもまた問題でねえ」


 図書室、図書館には種類と役割があって、それによって本の保存に対する考えも仕事も変わるみたいだ。町の小さい図書館でも、除籍は地域にある最後の一冊になっていないかどうか、気にしながら進めるらしい。


「いろいろなんだけどね」


 フジシロさんの話は勉強になるなあ。


「そういえばラベル作りながら、私が小学生の時には知らなかった名前が伝記にたくさんあるなあと思ってました」


 飛行家や推理作家も含めて女性が増えているし、武将も増えてた。高僧も。漫画家やアニメーター、芸術家や社会活動家もあったかな。


「新しくなってるなあ、て思いました」


 お料理の本も、初めての子供向けのものは電子レンジで全部できたりして、いいなあ。


「こんにちは」


 中学生の下校時間で、何人かのお客さん。

 そういえば昨日、今月のマンガとラノベの発売日リストの掲示、替えたっけ。

 ちょっとにぎやかになった。

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