第12話
居酒屋の個室に入り
良太は、一人で座り
対面に美希とおっさんが座った。
そこから
美希が重い口を開き
話が始まったのだ。
「良太、本当にごめんなさい。
あなたをずっと騙していました。」
美希が土下座をしてきたのだ。
陽平のお陰で土下座にも慣れたもんで
良太は何にも感じない。
「良太と付き合う前から
この人とは関係がありました。
騙していて
本当にすいませんでした。」
良太は
何を言われても
何にも感じない。
感覚が麻痺しているのかもしれない
怒りも悲しみも湧いてこない。
強いて言えば虚無感のみである。
良太は、何も返さず
黙っていると
おっさんが
「美希も謝ってるんだから
君もなんとか言ったらどうだ!」
などと、ふざけた事を言ってきたのだ。
普段なら苛立ちが爆発するが
今の良太は、何も感じていなかった。
「お願いだからあなたは黙ってて!」
美希が怒鳴った。
「美希が謝ってるのに
こいつが何も言わないのが
悪いんじゃないか!」
おっさんも負けじと
言い返すが、
「良太は、何も悪くない!
悪いのは私なんだから
あなたは何も言わないで!」
あまりの勢いに、
おっさんは黙り込んだ。
そんな姿を見て
「こんなおっさんのどこがいいんだか…」
ぼそっと口にしてしまった。
おっさんが
「なんだこの若造が!
失礼だとは思わないのか!」
またヒートアップしてしまった。
キリがないのでもう帰る事にした。
荷物を持って立ち上がり
「ごゆっくり」
と、言って個室から出ようとしたのだが
美希に腕を掴まれ
「お願いします…
あと少しでいいので
話をさせてください…」
泣いていた。
女の涙はずるい。
仕方なく座り直した。
そのあと美希は、
おっさんを黙らせ
話を始めた。
「良太と付き合ったのは、
この人と付き合っている事を隠すための
隠れ蓑だったの…
この人は、うちの会社の上司で、
私たちは不倫関係にあるの。
この人は、奥さんと子供もいて、
私は、不倫ってわかってて
付き合い始めた。
だけど、会社で疑われ始めて
お互いに会うのを控えようって事になって
その間に、話し合って私が彼氏を作れば
隠れ蓑になるからと
彼氏候補を探し始めたの。
その時に出会ったのが、良太だったの…
良太の事を呑みに誘って話してるうちに
この人なら隠れ蓑になるって思ったの。
当時の私には都合が良かった。
良太と付き合ったことで
疑いも腫れて、
この人とも会いやすくなった。
だから、良太には悪いと思ったけど
隠れ蓑には丁度よかったの。」
良太は、
「だから見た事があったんだ。」
そう思っていた。
おっさんは、話を聞いていたが
美希はそこから更に続けて
「良太と付き合い始めた頃は、
良太と会うのが、正直面倒だった。
罪悪感もあったから
断らないようにしていたの。
でも、良太と会うたびに
純粋で素直な良太に惹かれていった。
会えば会うほど
良太を好きになっていったの。
だからこそ、
今の状況が辛くなっていった。
良太を騙している事も、
この人との関係も、
そして自分の気持ちも。
でも、ずるずると関係が続いて…
どんどん時間ばかりが過ぎて…
だから決めたの。
今日でこの人と最後にするって、
これからは、
良太とだけ一緒いたかったから…
最後だから抱かせろって言われて従った。
良太との約束を断っても
最後だから行った…
でも罰が当たったんだね。
本当に大事な事に気付いて
本当に大切な人を見つけたのに
全部自分で壊しちゃったんだから…
…
良太を見つけた瞬間にさ、
あぁやっぱり私は、
幸せになっちゃいけないんだな!
良太を私の人生に
巻き込んじゃいけないんだな!
って思ったんだ…
…
今まで、
騙していて本当にごめんなさい。
今まで、
本当の私を見せていなくてごめんなさい。
良太と過ごした時間は、
本当に幸せでした。
こんな私と付き合ってくれて
本当にありがとうございました。
私と別れて
本当の幸せを見つけてください!
良太の幸せを心の中でずっと祈ってます!
話を聞いてくれてありがとうございました!」
話を終えた美希は、
切ない顔で泣きながら
必死に笑顔を作っていた。
良太は、
何も言わなかった。
何も言えなかった。
今までの別れとは違い
本当に良太を
好きになってくれた人との別れは
初めてだったからだ。
何も言わず上を向き
ため息をついた。
美希に言いたい事はある
言いたい事はあるのだが
今は、何もまとまらない。
だから最後に一言だけ
「今までありがとう…」
とだけ、伝えた。
おっさんは、
終始何も言えなかった。
素性もバラされ
強気でいられなくなったのだろう。
おっさんに対してだけは一言
言ってから帰る事にした。
「こんな見た目だけの
中味のないおっさんを好きになった
美希の気持ちだけは、
一生わかんないわ!」
おっさんは、顔を真っ赤にして
なんか言っていたが、
「見る目がなかったのは
否定出来ないわ。
後悔しかない。
しっかりと償う事にしたから
奥様にも、会社にも報告して
一からやり直してみます。」
そう宣言した美希を
おっさんは、絶望した顔で見てから
「それだけはやめてくれ!」
と、泣きそうになりながら言っていた。
その隙に荷物を持って、
個室を出て支払いだけは済まして
居酒屋を後にした。
良太は歩いて帰る事にした。
少し遠いが歩きたい気分だった。
「俺の人生は呪われてるのか?」
独り言を言いながら。
公園があったので
公園に行き
公園の中の池の前まで行ってみた。
過去の事を思い出し
今日までの事を考えていると
無性に叫びたい気持ちになった。
「俺が何をしたって言うんだぁ!!!」
大声で叫んだ。
スッキリはしたが、
今までの寝取られの中で
一番キツかった。
一番辛かった。
一番切なかった。
一番泣きたかった。
良太は、
池の前で
静かに泣いたのだ。
声を我慢して、
泣いていたのだ。
静かに、誰にも見られないように…
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