第42話 リンカネーションと大学のサークル探し(リンカ視点)

「そこのスタイルの良いお嬢さん!」

「はあ?」


 こうやって呼び止められるのも何回目かしら。

 まあ、無下に断るのも失礼だろうし、話だけなら聞いてあげるけどね。


「何かしら?」

「その引き締まったスポーティーなボディー。まさに陸上が似合いそうな体つき」


 ……とか言って肉付きのよい家畜とでも言いたげですが、数分前にも他の部員とこのような会話はしましたわ。

 まあ、向こうから目を付けられてのことですけど。


「そんなあなたには陸上部が似合う。さあどうでしょう? 少しでも気になったらこの申請書にサインを」

「あっ、いや、印鑑がなければ手形でもよろしいので。ちゃんと特注の大型な朱肉もありますよ」


 今年の春から入学したばかりで大学のサークル活動とやらに興味がわいて足を踏み入れたのですが、これがまた苦痛ですわね。


 歩いて数歩で声がかかり、強引に勧誘されるがまま。

 バレーにバスケ、テニスに卓球などと一方的に話しかけてくる女子生徒の言葉の壁を乗り越えて、リンカ自身も何とか断りながら渡り廊下を素通りしてきたけど、しつこいのも程があるわ。


 リンカは別に飛びっきり運動神経があるわけではない。

 なのに道行く生徒たちは、すらりとした体つきがスポーツに向いていそうという単純な理由での誘い文句ばかり。

 正直スポーツは観戦派ですし、球技もあまり得意ではありませんわ。


「すみません。リンカ急いでますので」

「こ、こ、後悔はさせません!」


 しかも今度の陸上部もサークル関係もしつこすぎる。

 リンカから断りを入れているのにさっきから進路を妨害し、強制的に入部させようとする。  


 様々な体育系の部活やサークルを断ってきて最後に辿り着いたのが陸上部。

 この運動部を逃すとこの大学のスポーツ部門も危ういのかしら?

 最後の門番として、もう後にも先にも引けないのかしら?


 確かにリンカは入部希望に来ましたけど、興味があるのは文化系ですわ。

 少しでもあの娘の気持ちが理解したいとそれ系統のサークルを探してるのですが、中々見つからないものですわね。


「是非ともわたくしたちと青春の汗をかきませんか?」

「書くのも消すのもごめんですわー」

「くっ、おのれ。宝の持ち腐れな身体をしおってぇぇー、青春を育むスポーツをやらないだとぉぉー‼」


 リンカは最後の運動部の逆上の飛びかかりを振り切り、とある扉の前で足を止めた。


「ここのようですわね。入部希望者がいなければ今年で廃部のサークル……」


 ドアの入り口にかけられた白い横断幕。

 その布には『ゲーム作ってプレイ同好会』と丸文字の手書きで墨で書かれている。


 ここに来ればいつもゲーム漬けのジーラの気分が少しは納得できるかも知れない。

 辛い現実に目を背けてゲームばかりやってきたジーラに現実も中々捨てたものじゃないと教えてあげたい。


 だが、そんなこっち側の主張を押しつけても逆に萎縮してしまい、怯えさせるだけだ。

 こちら側も向き合い、なぜジーラがそこまでしてゲームをプレイするのを好むのか、その理由を知る必要性もある。


 ジーラとは高校卒業後、疎遠になりつつあり、電話などでの通話が主だったが、この間柄にもなってジーラのことを知らなすぎるというのも盲点でもあった。


 リンカはこの同好会でゲームというを基礎から学び、ジーラの心情を少しでも分かるようにと決意し、この門を叩いたのだ。


『コンコン……』

『はーい、コンコン来んキツネ~♪』


 ──ノックをすると同時にドアが開いて掃除機のように引き込まれるリンカ。

 そう私は同好会のメンバーにより、拉致られたのだ。


「はい、一名様ご案内~。あなたのお名前は~?」


 分厚い眼鏡をかけた黒髪のみつ編みの女の子が鼻息を荒くしながら詰めよってくる。

 いかにもオタク色に染まってる女の子にリンカは身の危険を感じながらも名前を言わないと始まらないわね……と重い口を開く。


「リンカですわ」

「じゃあリンカちゃん、今日はこのサークルの見学ということでよろしいかな~?」

「はい、よろしくお願いします」


 この酔ってもないのにノリノリ気分な女の子がサークルのリーダーなのだろうか?

 他にメンバーもいないし?


「あら、気付いちゃった? そうなの。もうすでにご存じの通り、私以外メンバーはいなくて、人数が集まらなかったら今年で廃部の予定だったのよ~。これはラッキーだわ~」


 女の子一人が永遠にゆるゆるなトークを繋げる中、囚われの身になったリンカはとりあえず活動だけでも見てみようと思ったが、周辺にあるのはゲームの機体ばかり……。


「あの、ここではゲームを一から作るパソコンみたいな物はないのかしら?」

「うーん、去年まではあったんだけど、予算でゲームばかり購入してたらお金なくなっちゃって~」

「だからここにあった数台のパソコンを全て売っちゃったの~」

「だったらもう帰りますわ」


 リンカは当てが外れたと部屋から出ようと扉に手をかけたが、外側から鍵がかかったようにピクリとも動かない。


 これは、はめられましたわー‼


「まあまあ。ソフトの中でもゲームみたいな内容を作るシリーズもあるよん~」


 眼鏡を怪しく光らせた女の子が一本のカセットをリンカに見せてくる。

 今どき、CD媒体じゃなくてカセットなのですのよ。

 どれだけ予算がないのでしょうか。


「RPGツクーレがあればどんなRPG製作も思うがまま。さあ、空想の世界へようこそ~」


 ──リンカは女の子に誘われ、一緒にそのソフトをプレイして連日ゲーム作りの腕を磨いた。


 ──それから一年後、ジーラとお洒落なパン屋で再開して、リンカは思ったことを口しゃべっていた。


「ジーラ。ゲームの世界も厳しいのですね。リンカも何度も血を吐きそうになりましたわ」

「……何、それ。ゾンビゲーム?」

「そうですね。リンカの頭の中はすでに腐ってるかも知れませんわ」

「……脳内の隅々までヒキワレ納豆みたいな?」

「もういつ天に召されてもいいですわー‼」


 ジーラの目線になって判明したことが一つありますわ。

 あの16連射の高八名人いわく、ゲームは一日一時間ですわー‼

 くれぐれも百時間じゃないですわー!?

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