第32話 あけましてビックリポチ袋(ジーラ視点)
「あけましておめでとうございます」
「……あけおめ」
自分ことジーラは大晦日の掃除の後、急にお泊まり会の話しになり、急きょジーラの家に泊まった。
もち、ケセラのご両親から許可をとり、自分らも泊まることができたが、今はお正月気分でそれどころじゃない。
「ケセラさん、お正月といえば例のアレの準備はしてますか?」
「ああ、お年玉のことか。せやな……」
ケセラがミクルに向き直って、真剣そのものの目つきになる。
「実はな、今年からお年玉はなしや。もうええ歳なんだから甘えたら駄目だって」
「えっ、ケセラさーん‼ 私たちはまだ二十歳の成人を迎えてないんですよ?」
「泣いても叫んでも火星人気取りでジタバタしてもないものはないで」
「ケセラさんの人でなしー‼」
「ウチは人ですらなれんのか?」
「いえ、感情すらもない機械人形ですから」
「そのロボット設定なんなん?」
ミクルとケセラは仲が良いと見せかけ、たまにしょうもない口喧嘩をする。
今回はお年玉がキーワードみたいだけど、高校三年にもなってお年玉にすがるというのもみっともないとか……。
「……だったら自分家に来い。お年玉くらいはやる」
「えっ……?」
自分の発言にミクルの首が自分の方に九十度回転する。
しまった、至らぬ口が出てしまった。
「ジーラさん、お言葉に甘えていいんですか?」
ミクルの大きな瞳がキラキラと輝きすぎて、蒸発して気化しそう……じゃない。
今回のミクルの家での宿泊の件でも渋々オッケーしてくれたのに『お年玉をおくれ』とか言って友達も引き連れて来たとなると、間違いなく我が家に火の粉が降る。
でもここまで言って『すまない、冗談でした。ごめんごーw』と言える度胸もない。
「ジーラさん、そんなに震えてどうしたんですか?」
「……あまりの寒さに手足が震えて」
「暖房ガンガンつけてコタツの中におるのに?」
「いえ、ケセラちゃん。ああ見えてジーラは寒がりですのよ」
「ふーん、そうなんか」
リンカのナイスな言葉に流行語大賞でも捧げたい気分だが、今年も始まったばかりだ。
こうやって世間に流行語の迷言が出来ていくのか……。
「まあ、ケセラちゃんにも色々とお世話になりましたし、新年のご挨拶として顔を合わせるのもいいかもですわ」
ナイスフォローリンカ。
自分の言いたいことを素直に伝えてくれた。
持つべきものはやかんの取っ手ではなく、れっきとした人間である。
「じゃあ、そうと決まったらレッツゴーですわー!」
リンカが先陣をきって、ミクルたちを引き連れる。
まさに種○島宇宙アイランドに行く猿、犬、スクラップの記事。
「──おい、ちょっと待ちな」
──聞き慣れた低い女の声に自分は声の主へ目線を合わせる。
金髪で耳にピアスを着けた実際は三十代でも若く見える女性。
その佇まいはいつもと変わらない。
「誰の許可なしで勝手に人ん
「へっ、どちら様で?」
「ざけんなよ、こん
お母さんが自分の方に親指を突き付けて、オレの子供扱いをする。
まさかお母さん自ら、ここに来るなんて。
「お年玉か何か知らんが、高校三年にもなって貰おうだなんて気心が知れないね?」
「ねんねこボウヤじゃないんだから、金が欲しいなら働いて稼ぎな‼」
ありゃ、今日も熱くなっていて機嫌悪そう。
これじゃあ何を言っても通用しない。
それ以前にそもそもボウヤじゃないけど。
「それ以前にそもそも私たちはボウヤじゃありませんよ」
「……ひょえ」
ミクル何てこと言うの!?
キレやすいお母さんのことだから逆上してきっと……。
「へえー、あんた大人しい顔して、中々言ってくれるじゃないか?」
「あんたではありません。ミクルです」
お母さんはミクルを鋭い眼光で睨みつけながら、煙草を口にくわえる。
ちなみにお母さんは煙草は吸わない。
本物そっくりだが、中身はラムネの棒切れだ。
「ほーお、ミクルとやら。若いからって調子にのるんじゃねーぞ?」
「若いだけでは理由になりませんか?」
「ああん? 口だけは達者だねえ?」
「芸達者ではいけませんか?」
「あーん? 誰に向かって言いよるん? 口の言い方に気いつけな‼」
駄目だ、このお母さんの状態でも怯まないミクルに襲いかかるのは火の粉を越えた天ぷら粉しかない。
「親か何か知りませんが、子供の前でそんな態度はどうかと」
「へえー、あんた、あたしに喧嘩売っとん?」
「いえ、そうではないです」
「ああん? 何様よ?」
「ええ、子供様です。子供は親を見て育つのです。親なら喧嘩ではなく、平和的に落ち着いた話し合いなどで親らしい行動を取るべきです」
「へえー、親らしい行動ねえ?」
お母さんの白い額に青白い血管が浮き出てる。
これガチのヤツだ。
「……ミクル、その辺で」
これ以上、お母さんに関わると大噴火どころが地球半分が消滅する。
自分は必死になっていてミクルを守るために彼女の前に立った。
「ふーん、なるほどねえ」
「合格よ、合格」
お母さんが自分を見ながら急に笑顔になる。
自分にはその感情の変化が分からない。
「娘の友達っていうから、ろくでもないヤツが引っ付いてるんかと思って
「「えっ?」」
ミクルとケセラが驚きの声を上げる。
声を上げると言ってもコケコッコではないし、リンカは無言で雑煮を食べている。
「ほら、あたしの子供ってゲームばっかで引っ込み思案だからさ、その断れない性格から、不良っぽいグループに強引に入らされてるかと思ってね。ちょいと探らせてみたわけ」
ビックリした。
自分のお母さん、元ヤンキーでレディースの側近だったらしく、こういう怖い人であり、自分も厳しくしつけられた立場だったから……意外。
お母さんが長期出張中、冬休みに飲まず食わずにゲーム三昧だったのがバレて、そうとう怒られたことを思い出す……。
「おまけに人の痛みもきちんと分かるみたいだし、あんたもいい友達を持ったわね」
「……イタイイタイ」
ご機嫌なお母さんが容赦なく背中を叩いてくる。
いや、これはもう布団叩きだ。
「それでジーラさんのお母様、肝心のお年玉は?」
「ああーん?」
『何、コイツ天然なん?』ってお母さんが小声で話してきて自分はコクリと頷く。
お母さんは苦々しい表情をしながら……、
「とりあえずこれ着けて、町内の商店街を一周な」
「あっ、はいっ‼」
……お母さんがミクルに白いたすきをかける。
そのたすきに赤い字で『今年もお店をよろしく』と書かれた文面にハッとなる。
アレはお母さんの仕事先の宣伝だ。
お母さん、ちゃっかりしてるな。
「ではお母様、行ってまいります‼」
そして、そのことに気づかないミクルもマヌケだ。
──ミクル一号機、ただ闇雲に前線へ
すでに地雷を踏んでてサヨヲナラ。
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