第13話 愛、気が合い、それはお嬢さんが食べるアイスクリーム(ケセラ視点)

「ケセラさん、生きていますか?」

「はあはあ……辛うじて……」


 太陽の日射しがまともに当たり、残暑が厳しい校内のグラウンドで荒い息をするウチ。

 嬉し楽しいはずの夏休みに入ったけど、グラウンド内には私たち四人しかいなく、おまけにめっちゃ暑いときたもんや。


「はあはあ……こんな時期に縄跳びの二重跳びに挑戦するミクルの気持ちがよう分からんわ……」

「夏休みに先生から頂いた特別課題ですから」

「その先公は鬼やな」


 もっと文化系の課題もあったやろ?

 エアコンの効いた室内で読書感想文とか。


「……毎晩、鬼殺し焼酎飲んでいそう」

「ジーラ、体内の鬼(細菌)をやっつけてどうするの。白血球の仕事が無くなるでしょ?」

「……なんなら肝臓工場でバイトすればいい」

「くうぅー、派遣でもないのに、急な転勤先もある仕事勤めは辛いわねー‼」

「……血流に乗れば最速」


 あの後ろにいる二名は何を話しとる。

 ヲタクのジーラの影響か『はたらけ細菌』の作品に感化され過ぎや。


「じゃあ、ケセラさん。少し休憩して再度私に二重跳びのお手本を見せてもらいますか?」

「ミクル、これで十三回目の金曜日(今日の曜日)やで。美少女のゆでダコが出来てもいいんか?」

「うーん、かき氷もいいですが、たこ焼きも捨てがたいですね」

「おい、お嬢さん。一度、三途の川を見たいんか?」


 ミクルがヨダレを垂らしながら、痩せたお腹をさする。

 ちゃんとした食べ物は口にしているのか、この食欲魔女は……。


「ケセラさん、それじゃあ、絵日記の課題は後回しにしてましょうか」


 ミクルがグラウンドの草影に置いていたバッグに縄跳びをつめこみ、ウチに背を向けて歩み出す。

 高校生で絵日記も謎やけど、その絵日記で縄跳びとか、どんだけ先公の注目を浴びたいん?


「ちょっと校庭から離れてどこ行くん?」

「どこって気張らしですよ。ケセラさんも来ますか?」


 はあっ?

 来ますかって?

 なんなん、ウチ拉致される前提?

 まあ気晴らしって言ってるし、ここで炎天下の火遊びならぬ、縄跳びをするよりはマシやな。


****


「……着きました、ここですよ」

「えっ、ここって?」 


 ウチらは学校から近くにある古びた平屋に訪れていた。

 この店はウチもよく昔は利用していたけど、この不景気にも負けずに店自体はまだあったんやな。


「はい。紛れもない地球ですよ」

「あのさあ、ウチは銀河から来た宇宙人じゃないし、太陽系惑星の紹介はええから」

「えっ、だって面白い設定じゃないですか」

「それはミクルの頭ん中だけな」


 店頭の屋根に掲げた『駄菓子屋タカシ』の名の通り、店内には色んな駄菓子が置かれていた。

 中には懐かしい駄菓子もあり、ウチは幼少に戻った気分で店内を見渡していた。


「……風船ガムはヤバい」

「ジーラにも苦手なお菓子があったんやな」

「……気分はホルモンを食べている感覚」

「ああ、ジーラさん、胸ペッタコですからね」

「……ミクル。その胸、えぐるぞ」


 ジーラ、女性ホルモンの話が噛み合わんことに腹を立ててるな。

 ミクルの中に流れてる血は天然水(天然ボケ)のようなトマトジュースやからな。


「ケセラさんはガ○ガリ君でいいんですよね?」

「……あっ、そうやけど」


 わざわざ、コンビニから迂回して、この場所でアイスを買う理由が分からんわ。


「なあ、ミクル。駄菓子屋に来たんだから駄菓子を買った方がよくね?」

「何を言ってるんですか。暑い日にはアイスが一番ですよ」


 ミクルがソフトクリームを冷凍ボックスから取り出してペロペロとなめ出す。

 バニラのミルクで女性ホルモンを活性化か?

 逆に反動で太りそうだけど……。


「……蒲焼き二郎」

「炊きたてのご飯に合いそうなお菓子ですわ」

「……全国の女子高生の憧れ」

「良心的なお値段で丼が味わえるにことはないわね」


 あの二人組は何をコソコソしながら会話をしてるんや?

 ここにご飯のおかずは置いてないで。


「ケセラさん、早く食べないと溶けちゃいますよ?」

「あっ、それもそうやな」


 ウチは水色のビニールの包装紙を開けて、アイスを引き出す。

 そのつもりが……、


「……ぬっ、抜けん」


 アイスが包装紙に引っかかって取り出せない!


「……ケセラは呪われた」


 ジーラがあるメロディーを口ずさみ、ゲームの台詞を声に出して苦笑いしてる。


「くっ……まさかビニールにアイスが貼り付くなんて……」

「ケセラちゃん、めげないで。戦いは始まったばかりよ!」

「せやな、ありがとう。リンカ」


 リンカの励ましにより、勇気を貰ったウチはアイスの棒を握りしめて慎重に引き出す。


 お母ちゃんのためなら、えんやコーラ!

(持っているアイスはサイダー味です)


『スポン!』


 つるりとした手触りから軽々と飛び出たアイスの棒。

 その棒先に目的のアイスは付いていなく、アイスだけが袋の中に入ったまま……。

『ハズレ、アタリが出たらもう一本』と書かれた棒切れにウチはやるせない気持ちになる。


「ふざけんなやぁぁー!」

「ケセラさん、落ち着いて下さい!」

「いけない! 過呼吸だわ!」


 リンカとジーラもウチに駆けよって懸命に声をかけてくる。


「ケセラさん、なくした気持ちは分かります。でも今は耐えて下さい!」

「……探し物は袋の中」


 おお、ウチの命を繋げる生命線の固まりよ。

 夢の中で生きてみたいと思いませんかああー‼


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