第12話 夏、海水浴、海でイエーイ(リンカ視点)

 海開きの知らせを耳にして、リンカたちは近くの浜辺に海水浴にやって来ました。


 さらさらとした砂浜に照りつける太陽。

 もうすっかり夏らしくなったね。


「夏到来、青い海だ、珊瑚さんごが美しい海水浴だあー!」


 もうケセラちゃんったらはしたない。

 スタイルも抜群で、白いビキニ姿という大人の色合いな水着を着ているわりにはまだまだ考えは子供だね。


「ケセラちゃん、はしゃぐのもいいですが、あまり遠くまで泳いだら駄目ですわよ」

「にゃはは。海の神様カー○ルイスからの直伝された泳ぎをなめたらあかんよw」


 あの……、どこ情報かは知らないけど、カー○ルイスは陸上選手だったはず。


「じゃあケセラさん、私に泳ぎを教えて下さい」

「おっしゃ、ミクル、ウチに任せな!」

「ではどのように着水すればいいのです?」

「まずは肩の力抜いてリラックスして体を委ねてみ」


 青いワンピースの水着のミクルちゃんがケセラちゃんから指導されてる。

 ミクルちゃんは泳げないとは聞いていたけど、まさか水面に顔すらも浸けられないとは……。


「け、ケセラさん、私頑張ります!」

「まあ、そう慌てんでもええよ。今日ができなくても後日、市民プールで練習したらいいし」


 そうそう、ここは大きな波や深瀬もある海だし、何かあってもおかしくない。

 練習となると、時には安全な環境も必要だ。


「いえ、今日中じゃないといけないんです! ですからビシバシとお願いします!」

「ミクル、あんたって子は……」


 ケセラちゃんが手の平で顔を覆いながら、その場にしゃがみこむ。

 あらら、泣いちゃったみたい。


「ケセラさん、顔を上げて下さい」

「ミクル……しゃーないな」


 ケセラちゃん、復活。

 ふーん、ミクルちゃんの方が意外にも大人な素振そぶりがあるわね。


「私、早くアワビが採れるよう、頑張りますから!」

「へっ、アワビ?」

「はい。将来、海女さんになってバリバリ稼ぐのです!」


 その答えにケセラちゃんが手の甲で涙を拭いて、ゆらりと立ち上がった。


「……ミクル」

「はい、何でしょう?」

「こうなったら潜水が1分以上出来るよう、徹底的に鍛え上げてやるんだからねー!」

「はひっ!?」


 あーあー、ケセラちゃんを怒らせてしまったわね。

 ミクルちゃんはホントに天然なんだから。


****


 朝からたっぷり遊んで二時間後……。


「皆さん、そろそろ休憩して海の家で昼食にしない?」

「せやな、腹も減ったことやし」

「いいですね、行きましょう」


 リンカ的には彼女らを自然に誘ったつもりよ。

 リンカの客寄せに感謝してよね、海の家でバイト中のジーラ……。


****


「いらっしゃいませ!」

「あれ? リンカちゃんじゃなーい!」

「こんにちは」

「お隣の二人は恋人? しかも堂々と二股?」

「いや、普通に友達ですよ……」


 この長い金髪の美人さんはジーラのお母さん。

 若くして結婚したこのお母さんは会うたびに若返っているような雰囲気だ。

 

 ちなみに元は黒髪だったが、反抗期だったジーラからなめられないよう、染めたらしいが、逆にジーラからその度胸を尊敬され、それ以降、金髪のスタイルが気に入ったらしい。


「いらっしゃい!」

「おう、見慣れた顔と思いきや、リンカちゃんじゃねーか。お友達もつれてきて」


 奥で作業していた短めな黒髪の男性もこっちに威勢のいい声をかけてくれる。

 この人はジーラのお父さんでお母さんに負けじと若々しく、いつ見てもイケメンだわ。


 そう、種明かしすると、ここの海の家ではジーラたちの両親が夏限定で運営してる飲食店ってわけよ。


「ごめんね、ジーラは今キッチンにいて、洗い物で手が離せないの。伝言なら伝えておくわよ」

「いえ、別にいいですよ。いつでも会えますから」


 リンカの正直に述べた答えにジーラの両親が涙を浮かべる。


「うんうん、ジーラも素敵なお友達が出来たわね」

「そうだな、母さん。転校前はボッチだったもんな」


 こんな陽キャな両親とは違い、どうしてジーラはあんな暗い性格なんだろう。

 リンカ、このギャップのせいで、毎回戸惑うばかりだわ。


「……お母様、洗い物完了。次なる指令を」

「ありがとね、ジーラ。お友達が来てるわよ」

「……おや、噂のニート組が来たか」


 奥から青いエプロン姿のジーラが出てきて、いつもと変わらない毒を吐く。


「いや、リンカたちは学生だからね」

「……そんなの言い訳」


 ジーラが不機嫌になり、フグのように顔を膨らませる。


「ジーラ、もう今日の手伝いはいいから、みんなと遊んでいきなさい」

「……でもお母様」

「そうだ、ここで遊んどかないとどうする。学生時代の青春は一瞬だぜ」

「……お父様も」


 ジーラは俯きながらも二人のこと気にしているわね。

 ぶっきらぼうの癖して、この子はとても優しいから。


「店のことなら心配いらないわよ。そのためにお父さんがいるんだから」

「任せんシャインマ○カット!」


 ジーラのお父さんが銀のコテを輝かせ、両手に持って決めポーズをする。

 陽キャで正反対な性格だけど、こういうギャグっぽい血は受け継いでいるのよね。


「……じゃあ、お言葉に甘える」

「そうそう、若いうちに沢山遊んどけ。社会人になったらそんな暇ないからな」

「……お父様」


 感動の対面をする親と子供。

 リンカ、思わず涙腺が緩んじゃいそうだわ。


「さあさ、ここでボーと突っ立っていたら他のお客さんの邪魔でしょ。特製焼きそば作ってあげるから席に座って待ってて」

「わーい、焼きそばですー!」


 ミクルちゃんが軽くスキップをしながら一番乗りで席につく。

 リンカもケセラちゃんと一緒に席に座った。


 その際、ジーラがリンカの後ろに身を寄せながら小声でささやく。

『食欲魔女なミクルを焼きそばの紅しょうがのみでオトせ』と……。


 普通、そこは『お店に来てくれてありがとう』じゃないの?

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