第6話 キャンプ、ステップ、ジャンプ(ケセラ視点)
窓を吹き抜ける風が心地よい5月晴れの陽気。
女子の憩いの場とも言える校内でのお昼休みに、お弁当箱を空にしたミクルがケセラに話しかける。
「ケセラさん、今度、仲良し四人組でキャンプに行きましょう」
──ウチがのんびりと教室で唐揚げパンを食べてると隣のミクルが妙なことを言ってきたんよ。
「ミクル、この時期のキャンプは冬の延長戦やで。大地の上で真っ白に凍りつきたいん?」
「いえ、ケセラさん、自分は至って真面目です」
「いや、マジなのは顔見て分かるけど、そうも真剣に問われてもな」
「……気合いで国家試験」
「いんやジーラ、キャンプに要るのは先人の知恵で普通は資格とかいらんから」
本当に必要なのは道具の方やけな。
夜は冷えるから冬用の寝袋はいるし、テントや火をおこす薪などもいる。
春は暖かいって言っても日中だけやからな。
夜は風が強くて、急に天候が荒れまくりとかが現状やしな。
「ねえ、リンカさん。この熊のぬいぐるみのような寝袋、可愛くないですか?」
「あっ、これ今どきの女子に人気な歩ける寝袋だね」
「……格好は宇宙飛行士」
三人がスマホを出して、キャンプ用具の情報源を色々と探っている。
「──って何で勝手に話進めてんの‼」
たまに思う。
この三人はウチとは毛色が違うと。
こうやって暴走する時もたまにあるし。
「ウチを除け者にしてキャンプの話をするとはいい度胸やないの?」
「えっ? ケセラさんもてっきり了承かと思いましたけど?」
「……今からLI○Eオケ?」
「せんわっ!」
普通、目の前に友達がいるのに、その友達とLI○Eのやり取りとかおかしいやろ。
他の人にバレたくない恋ばなか何か知らんけど、どこぞの陰キャボッチなんよ。
「……じー」
「なっ、何なん、ジーラ、こっちを見て!?」
「ボチボチ」
ジーラが机にのの字を書いて微妙に嬉しそうな顔を見せる。
「そうそう。今一瞬ボッチの脳裏浮かんだよね」
「……高ボッチ高原」
「ジーラ、それ分かるわ。孤独さを追求した結果、たどり着いた理論よね」
「リンカさん、美味しい高原草も採れそうですよね」
「……タンポポの天ぷら?」
ウチはたまに思う。
この三人は共通の話題をしているようやけど、その話がたまに噛み合ってないことに。
「ちなみにタンポポ、漢方やからね」
「……コーヒーの代用品」
「そうそう。しかも体に良いときたもんよ」
「……原作ほこうえい」
「いやいや、アニメの会話してへんから」
「……興行収入ゼロ」
「劇場にすなっ!」
ウチはジーラの開いた口にあめ玉を投げ入れて、その軽すぎる口を封じる。
「ふう。これで少しは毒舌も大人しくなって」
『……バリボリ!!』
「速攻で噛み砕くんかい!」
「はい、よい子なジーラさん、最低三十回は噛んで下さいね」
『……ボリバリ!!』
リンカは他のクラスメートと雨の話題に夢中やし。
どうやって対処したらいいん?
「……おかわり」
「無いわ!」
食欲旺盛なジーラ犬があめ玉をねだろうと無いものはないで。
****
放課後、ウチらは近くのホームセンターでキャンプ道具を見て回ることにした。
ネット通販は便利やけど基本写真のみの確認やし、実物が届くまで何があるか分からんからな。
こうやって実物に触れて、この目で見た方がいい時もあるんや。
「うわあああー、色んな道具があるんですね‼」
「……これなんかがおすすめ」
「いや、熊手入らんやろ?」
「……落ち葉集めて焚き火」
「いやいや薪があるやろ」
「……落ち葉は着火材として」
「普通に着火材買えばええやん」
「……いけず」
ウチの反応に三人組が離れてヒソヒソ話を始める。
「今日のケセラさん、ちょっと冷たくないですか?」
「うーん、いつもなら尻尾振ってツッコミ役を演じるんだけど……」
「……胃袋の中のかわず」
おい、トリオ組、悪口を言うなら少し声のトーンを下げな。
ここからでも話が丸聞こえや。
「……まさかのツッコミを引退」
「なるほど。なら引退の記念を籠めて贅沢なキャンプにしましょうよ」
「……キャンプファイアー」
「はい、燃えてきましたー!」
勝手に盛り上がって燃えてるみたいやけど、余計な消火器(ツッコミ)は入らんよね?
「じゃあ燃える記念としてケセラちゃんに何がいいか教えてもらおうか」
「そうですね。ではリクエストとしてケセラさんに直接聞いてみましょう」
「……棚田のリクエスト」
おう、プレゼント名義とやらでウチに向かってくる気迫をびしびし感じるけど、嫌な予感がするのは気のせいかいな?
「ケセラさん! ケセラさん!」
「あのお洒落な寝袋と、隣の可愛い寝袋どっちが良いと思いますか?」
「そうそう、是非ケセラちゃんが買う時の参考にしたいのよ」
ちょい待ち、ウチはトリオ組の言葉を冷静に整理してみると……。
「あんたらが買う参考にしないんかいー!」
「ええー、だって私たちにはお高いじゃないですか?」
「そうよ。とてもじゃないけどリンカたち高校生が買えるような値段じゃないわよ」
そうだよね、いつもこの子たちの感覚は普通じゃないし。
やっぱりこういう流れできたかい。
「じゃあ、何でわざわざここまで来たん?」「えっと……暇潰しでしょうか?」
「ここはゲーセンやないでー!!」
「……エビセン、投げ銭?」
「買わんわ!」
もうツッコミどころがありすぎて疲れたわ。
家の中にテント張って、その中で寝たい気分やわー。
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