お前、正義の魔法少女じゃねえのかよ!

夕藤さわな

第1話 姉と妹

 片や目が合えば〝ごきげんよう〟と挨拶し、片や目が合えば〝何、見てんだ。あぁ~ん?〟と挨拶する高校がお隣さん同士なんてこともある。


 公立・御仏みぶ高等学校。

 私立・清華せいか女学院高等学校。


 仲が悪いというより分かり合えない二校。

 そんな二校に双子の姉妹が通っていて、その姉妹も仲が悪いというより分かり合えないなんてこともある。


「茜様、ごきげんよう」


「今日もお美しい……」


 なんてお嬢様方にうっとりとため息をつかせながら清華女学院の品の良いアーチ形の正門をくぐってきたのは相田 あかね

 幼稚園からの内部生がほとんどの清華女学院で難関とされる入学試験を合格した、現一年生唯一の外部生だ。


 成績は全教科学年一位。スポーツ万能で特に弓道は全国大会で優勝する腕前だ。

 白い肌、すらりとした手足、艶やかな長い髪。立ち姿は凛としていながら控え目で儚げな微笑みを浮かべている。

 その美しさゆえに外部生に手厳しい清華女学院のお嬢様方をもとりこにしていた。


 そして――。


「まぁ、御仏高の……」


「なんて品のない」


 なんてお嬢様方に顔をしかめられながら清華女学院の正門の前を通りかかったのは相田 ゆう


「あぁ?」


 古式ゆかしくメンチを切るゆうにお嬢様方はさらに顔をしかめた。


「まぁ、怖い。さすがはオブツ・・・高校の生徒さん」


「あの方、茜様と双子なんですって?」


「心根がにじみ出ているのよ。姿形は似ていても茜様とは大違い」


 お嬢様方の隠す気もない影口にゆうはため息をついて歩き出そうとして――。


「お姉様!」


 茜の――双子の妹の声に足を止めた。


「昨夜は家にも帰らず、どちらにいらしたんですか?」


 手を組んで祈るように姉のゆうを見つめる茜にお嬢様方はほぉーっとため息をついた。


「学校には行ってるし、父さんや母さんから連絡があればちゃんと折り返してる。小さなガキじゃねえんだ。放っとけよ」


 うざったそうに妹の茜から目をそらすゆうにお嬢様方ははぁーっとため息をついた。


「心配なんです! お姉様を放っておくなんて私には……!」


「よく言うよ。私のこと、嫌って、憎んでるくせに」


「そんなことありません!」


「へいへい」


「お姉様……!」


 ひらりと手を振ってゆうは茜に背を向けると自身が通う御仏高の正門へと歩き出した。


「お姉様! 待って、お姉様……!」


 呼び止める茜を無視して去っていくゆうを見てお嬢様方は目をつりあげた。


「茜様がこんなにも心配しているのに……ひどい方!」


「さすがはオブツ高校の生徒さん。家にも帰らず何をなさっていたのかしら」


「もしかして法にふれるようなことを……」


「ちょっと!」


 肩を叩かれたお嬢様は慌てて口をつぐむと茜の表情をうかがった。茜はと言えば悲し気な微笑みを浮かべて目を伏せている。


「申し訳ありません。私、なんてはしたないことを……!」


「私たちのこと、嫌いになりました?」


 潤んだ目で見つめるお嬢様方に微笑みかけて茜は一人をそっと抱きしめた。


「……私はいつでも、こんな風に・・・・・思っています」


「茜様!」


 抱きしめられたお嬢様は歓喜の涙を目に浮かべた。そんなお嬢様と茜を他のお嬢様方が取り囲む。


「茜様、私のことも……!」


「私のことはどう思っていらっしゃいますか!?」


「皆さんのことも同じように思っています」


 にこりと微笑んでお嬢様方を一人、また一人と茜はそっと抱きしめる。そのたびに歓喜と羨望の悲鳴があがった。


 いつまでも終わらないかに思えた騒ぎだけど、そこは清華女学院のお嬢様方。


「もうこんな時間!」


「そんなぁ! まだ私、茜様に抱きしめてもらっていないのに!」


 なんて言いながらもチャイムの音を聞くなりちゃーんと教室に向かって歩き出す。

 茜も歩き出して、ふと足を止めて振り返った。


「……お姉様」


 アーチ形の正門の前を御仏高に向かうためにただ横切っただけの姉。もういない姉の姿を追い求めるように見つめて茜は言った。


「お姉様のことを嫌ってなんていません。憎んでなんていません。本当です」


 祈るように手をぎゅっと握りしめて悲し気な表情で言った。


「私はただ……お姉様を殺したいと思っているだけなのに」

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