第4話 進路

私は中学三年生の四月に吹奏楽部を辞めた。理由はやりたくもないソロを綾乃ではないもう一人のクラリネットの子から無理矢理押し付けられ、合奏で顧問の先生に皆の前でできないんだったら他の子にしてもらうと言われたことだ。そして、押し付けてきた子から私もソロの所練習しとかないと、と嫌味たらしく言われたのだ。流石に耐えられなかった。


部活を辞めたことによって、羽美や綾乃と関わることが無くなった。


高校受験が控えていたので私は勉強に集中した。羽美のことを忘れるように勉強した。

家から一番近くて偏差値的にも余裕で制服が可愛い高校を第一志望にした。


そして、無事に第一志望の高校に合格した。驚きだが、羽美と綾乃も同じ高校だったのだ。しかし、クラスも違ったことと私が吹奏楽部に入らなかったことで二人と関わることは無かった。


そのまま何事もなく、高校一年生が終わった。


高校二年生のクラス替え、羽美と同じクラスになったのだ。そして、私たちの名字は『中野』と『中尾』。必然的にクラスでの席順が前後になるのだ。


「奈々!久しぶり!また同じクラスになれたね。よろしくね。」

羽美はそう言った。


しかし、関わりは毎日挨拶する程度だった。クラスの自身が属しているグループが違ったのだ。羽美は同じ吹奏楽部の子たちと絡んでいた。いわゆる、一軍のグループだ。私は大人しい子たちのグループにいた。


それでも私は、羽美と授業中に近くにいられることが嬉しかった。話すことは無くても幸せだった。あの頃と羽美への想いは変わらない。


文化祭、体育祭と特に羽美と何かあったわけではなかった。

私が吹奏楽部を辞めていなかったら、あったであろう羽美との青春。せっかく同じクラスになれたのに悔しかった。羽美との関係が疎遠になっていくことが寂しかった。


そして、決定的なことがあった。


高校二年生の三学期、私が家の事情で高校を転校することになったのだ。私はそのことを誰にも言わなかった。


どうしてって?


それは……。

羽美へのこの想いを断ち切りたかったから。



それなのに、それなのに。

中学三年生の私からの手紙を見つけてしまった。

せっかく何年もかけて羽美への想いを忘れようとしていたのに……。



そうだ。あの海に行こう。

そして、もう何もかも忘れてしまおう。それで私の羽美への恋は終わりにする。過去の私には悪いけど、もうどうすることもできないんだ。この想いが叶うことは決して無いんだ。


さようなら、私の長い間の淡い恋よ。

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